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LGBT新法が与野党で協議中、社会の変化「後退」懸念も。今国会提出の方針、注視すべきポイントは

松岡宗嗣一般社団法人fair代表理事
筆者撮影

自民党のLGBT特命委員会が「LGBT理解増進法案」の要綱を了承。自民党内の手続きや、超党派のLGBT国会議員連盟において与野党間での協議が進んでいる。

法案は性的指向や性自認に関する「理解の増進」を掲げるが、これまでの経緯やメディアで報じられている内容などから、性的マイノリティをめぐる社会の動きがむしろ後退してしまうのではないかといった不安の声が高まっている。

特命委員会は、今国会での議員立法をめざす方針としているが、与野党でどのような協議がされるか、強く注視する必要がある。

差別をなくすための法律とは

朝日新聞の報道によると、LGBT理解増進法案は「多様性を受け入れる精神の涵養(かんよう)と、寛容な社会の実現」を目指し、政府に対し「理解増進」に向けた基本計画策定を義務付け、施策の実施状況の調査を求めている。

しかし、国や地方自治体、学校や企業などに求める理解増進のための施策は「努力義務」になっており、施策を行わなくても実質的には特に問題はないという位置付けになってしまっている。

そもそも、80以上の国がすでに法律で性的マイノリティに関する差別の禁止を規定しており、G7でこうした法律がないのは日本だけだ。

「差別禁止」が規定されなければ、例えばトランスジェンダーであることを理由に採用面接を打ち切られたり、ゲイであることで異動や解雇にあった、同性と付き合っていることを理由に教室から追い出されたといった、いま実際に起きてしまっている「差別的取り扱い」から当事者を保護することができない。

「障害者差別解消法」や「男女雇用機会均等法」、2019年に前政権の下で制定された「アイヌ新法」などでも差別的取扱いの禁止が明記されていることからも、この規定が不合理な差別をなくすための基礎となる条文であることがわかる。

しかし、現時点の自民党特命委員会の案は、差別の禁止ではなく「理解の増進」、それも努力義務にとどまっているようだ。なぜこのような案になっているか、その手がかりとして、過去に自民党が「理解増進」を掲げた理由として、性的指向による差別解消を進めれば、同性婚などにつながる懸念が示されていたことを思い起こす。

つまり、異性カップルと同性カップルで結婚できる・できないという異なる扱いにすることは「差別的取扱い」にあたるため、これを法律で禁止してしまうと、同性婚の法制化へと繋がると懸念しているのであろう。しかし、実際には差別禁止を規定しても自動的に同性婚が法制化されるわけではなく、婚姻に関する民法改正が必要だ。

3月17日に札幌地裁で、同性婚をめぐる歴史的な「違憲判決」が下された。判決では、圧倒的多数派である異性愛者の理解や許容がなければ、同性カップルに対する婚姻による法的効果が認められないことはおかしいということも示されている。

しかし、現時点で報じられている内容の法案のままでは、同性婚の法制化や、さらには自治体のパートナーシップ制度の導入のみならず、教育や労働、医療の現場などでのさまざまな取り組みも、「理解を広げることが先」と言われ、先延ばしにされ続けるのではという懸念の声が聞かれる。

「理解」とは何か

そもそも、理解増進法案が掲げる「理解」とは何を指すのだろうか。

確かに適切な認識を広げたり、啓発を進めたりすることはもちろん重要だ。しかし、その「理解」の内容に、例えば「同性婚」や「パートナーシップ制度」の必要性などは含まれないかもしれない。むしろ性的マイノリティに対する差別や偏見を助長するバッシングが含まれてしまう可能性も懸念される。

実際に、LGBT理解増進法案について説明があった自民党議員中心の会合では、「暴走するLGBT」と題された講演があり、トランスジェンダーに対するバッシングが行われていたという。内容を知るトランスジェンダー当事者の間では、動揺や警戒の声が強く聞かれる。

ここから思い出されるのは、過去に、文科省が発出している性的マイノリティに関する通知についてのパンフレットで、「当事者団体などによる学校での講話」について「中立性の確保」などが記載されていたことだ。

どのような方向の「理解」なのか。差別をなくすのではなく、差別を助長するような理解では、法案の意味がない。それどころか法律がない方が良い、ということになりかねないだろう。

仮に、このままの内容で今国会で法案が成立すると、この法律をベースに国や地方自治体は、性的指向や性自認に関するさまざまな施策を進めていくことになる。  

例えば、今後国や自治体が「LGBT」に関する啓発パンフレット等を作成する際には、「同性婚」の「中立性」が問われるかもしれない。場合によっては、学校や企業で性の多様性に関する研修を進める際も、「中立的」な考え方にそった講師や研修の内容が推奨される可能性もあるだろう。その「中立的」な内容がトランスジェンダーへのバッシングでないという保障も残念ながら断言できない。

そこまでいかなったとしても、法案に書いてある以上の施策はやめておこう、それ以上はやりにくくなるーーそんな声が自治体関係者からも漏れている。

すでに意識のあるさまざまな自治体や民間企業が独自に啓発などを進めている。厚労省が委託実施した調査では、大企業の半数近くが、すでに性的マイノリティに関する取り組みを実施している。

100を超える自治体でパートナーシップ制度が導入され、差別禁止を条例で定める自治体も増えつつある。6割以上の人々が同性婚の法制化に賛成し、いじめや差別を禁止する法律・条例の制定への賛成は約9割にのぼる。

このままの法案の内容では、こうした世の中の流れを止めてしまい、場合によっては後退させてしまうのではという懸念を持たざるを得ない。

全会一致が原則。差別を禁止した上で、理解の増進も

野党は2016年と18年にすでに二度も「LGBT差別解消法案」を国会に提出しているが、与党が議論に応じず宙吊り状態だった。一方で、自民党は2016年に「LGBT理解増進法」の基本的な考え方をまとめたが、この5年間具体的な法案がまとまらず棚上げにされ続けてきた。

そもそも保守的な自民党が、LGBT関連の法案を作ろうとすること自体”画期的”だという評価もあるだろう。法律が何もないよりあった方が良いという考えもあるかもしれない。こうした側面は否定しない。

しかし、忘れてはいけないのは、本当にこの法律が性的マイノリティをめぐる社会の現状や当事者の生活を改善できるかどうかだ。その観点から言えば、法律に必要なのは差別禁止か理解増進かという二者択一ではなく、「どちらも不可欠だ」ということではないだろうか。

性的マイノリティに関する差別や偏見に対し意識があってもなくても、不合理な差別的取り扱いをしてはいけないという基本的なルールを示すべきだ。その上で、国や自治体が起点となり、今以上に適切な認識を広げていくことこそ、この2021年に求められていることではないだろうか。

4月1日に三重県で施行された条例では、性的指向や性自認に関する不当な差別的取り扱いの禁止が明記された。この条例は自民党も含む全会一致で可決されている。

国レベルの早急な法整備が求められている。しかし、後退する法律であれば、繰り返しになるが、ない方がマシということになりかねない。

議員立法は与野党含む全会一致が原則だ。自民党以外の政党も含めた与野党協議の中で、どのような内容になっていくのか。本当に性的マイノリティをめぐる社会状況が改善する、実効性のある法律になるかどうか。性的マイノリティの命にかかわる重要な局面だが、残念ながら懸念は尽きない状況にある。

性的指向や性自認に関する差別的取扱いを禁止する「LGBT平等法」の制定を求めるEqualityActJapanは、4月27日(火)12:00〜13:30に「第5回レインボー国会」を開催。参議院議員会館よりYouTubeでLIVE配信する。

性的マイノリティをめぐる法整備の議論が今までになく進んでいる。党派を超えた叡智から、社会の変化の流れが後退しない、当事者の日常生活が着実に改善する、そんな実効性のある法律の制定を求めたい。

一般社団法人fair代表理事

愛知県名古屋市生まれ。政策や法制度を中心とした性的マイノリティに関する情報を発信する一般社団法人fair代表理事。ゲイであることをオープンにしながら、GQやHuffPost、現代ビジネス等で多様なジェンダー・セクシュアリティに関する記事を執筆。教育機関や企業、自治体等での研修・講演実績多数。著書に『あいつゲイだって - アウティングはなぜ問題なのか?』(柏書房)、共著『LGBTとハラスメント』(集英社新書)など

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