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WHO精神疾患「同性愛」削除から30年、LGBT関連団体が政府へ要望書を提出

松岡宗嗣一般社団法人fair代表理事
要望書提出の様子(Marriage For All Japan提供)

5月17日は「IDAHOBIT:LGBT嫌悪に反対する国際デー(International Day Against Homophobia, Transphobia and Biphobia)」。

新型コロナウイルス感染症の影響が続く中、政府に対し、LGBTに関する差別を禁止する法律の制定や、医療現場や行政の施策で同性パートナーを家族として扱うよう求めるなど複数の要望書が提出されている。

要望書を提出する「Marriage For All Japan」のメンバーと、それを受け取る総務省 高原剛・自治行政局長(Marriage For All Japan提供)
要望書を提出する「Marriage For All Japan」のメンバーと、それを受け取る総務省 高原剛・自治行政局長(Marriage For All Japan提供)

同性カップルの”家族扱い”やアウティング懸念

同性婚の法制化を目指す「Marriage For All Japan」は、14日、新型コロナウイルスに関する行政の施策や病院等で同性パートナーを家族として扱うよう求める要望書を提出した。

同団体が実施した新型コロナに関するアンケート調査では、同性パートナーが感染した場合に、病院等で家族として扱われるかという不安の声が多かったことから、緊急搬送やPCR検査、入院時や、国や自治体の支援施策において法律上の夫婦の場合と同様に扱うよう求めた。

また、感染経路に関する調査・情報の公開時に「アウティング」に繋がってしまうのではという懸念の声も多く、感染者に関する調査や情報公開において、プライバシーや人格が不当に侵害されることのないよう注意・周知徹底を要望した。

実際に、韓国ではゲイクラブでの感染拡大が大きく報じられ、SNS上では実名や顔写真などが晒され同性愛者に対するバッシングが広がっている。

韓国政府はクラブへ訪れた客に検査を受けるよう呼びかけているが、連絡がつかない人もいるという。感染者へのバッシングに加え、同性愛者に対する差別や偏見により、自分のセクシュアリティがバレてしまうことを恐れ検査を受けることができないという人も想定されるだろう。

日本でも新規感染者数は減りつつあるが、今後同様の事態が発生する可能性はあり、対岸の火事ではない。

LGBT法連合会共同代表の小田瑠依さん(左)、ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗さん(右)(筆者撮影)
LGBT法連合会共同代表の小田瑠依さん(左)、ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗さん(右)(筆者撮影)

LGBT差別禁止法の制定を

LGBTが直面する壁は、新型コロナ以前から立ちはだかっており、このコロナ禍で不安や懸念は増している。これは同性婚など、平時からの法整備の遅れに大きな要因があると言えるだろう。

その一つにLGBTへの差別を禁止する法律がないという問題がある。

今年3月には大阪で性同一性障害を理由に上司から「病気だから乗務させられない」「気持ち悪い」などと言われ退職を強要されたとして、運転手がタクシー会社を提訴した。

コロナ禍でも元々立場が弱いことから「トランスジェンダーは整理解雇の名目で解雇されやすい」という指摘もある。

LGBTに関する法整備を求める「LGBT法連合会」と国際人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」、スポーツにおけるLGBTの問題に取り組む「アスリート・アライ」は関係者との数ヶ月間の調整を経て、4月17日、安倍晋三内閣総理大臣に対し「性的指向・性自認(SOGI)に関する差別禁止法」を制定するよう求める書簡を提出、今月14日にその声明を発表した。

元々は、今夏に開催予定だった東京オリンピック・パラリンピックの開催国として、性的指向などの差別禁止を掲げるオリンピック憲章を守るよう求めた動きだ。

東京五輪は2021年への延期が発表されたが、新型コロナの影響も踏まえ、上記の団体が約100の賛同団体とともに先立って、政府に対しLGBT差別禁止法制定にコミットすること、法案の作成・国会への提出を求めた。

進まない法整備

5月17日の「IDAHOBIT」は、1990年5月17日にWHOが「同性愛」を国際疾病分類から除外したことを記念して定められた。今年で30年が経つが、日本でも依然として性的指向や性自認に関する差別や偏見は根強く残っている。

日本では2015年に超党派の国会議員による「LGBT議員連盟」が設立され、今年で5年が経った。さらに、昨年3月には、参議院予算委員会で安倍首相は「社会のいかなる場面においても、性的マイノリティーの方々に対する不当な差別や偏見はあってはなりません」と答弁をしている。

今月8日に発表された厚労省の調査では、職場におけるLGBTの認知度は6割を超え、さらに当事者にとって働きやすい職場について聞くと、最も多い回答が、人事評価等で「差別的取り扱いを受けない職場」だった。企業側が国に期待することも「ルールの明確化」が約5割と最も多かった。

このようにデータでも法整備の必要性は明らかになっているが、一向にLGBT差別禁止法や同性婚法制化の兆しはない。

国会では検察庁法改正案に注目が集まっている。Twitterの関連投稿の中には以下のようなツイートにも多くの賛同が集まっていた。

政府に求められるのは、新型コロナウイルスへの対応に全力を注ぐこと、そしてその際に、より社会の周縁に置かれやすい人々を見落とさず、セーフティネットを張っていくことではないだろうか。

一般社団法人fair代表理事

愛知県名古屋市生まれ。政策や法制度を中心とした性的マイノリティに関する情報を発信する一般社団法人fair代表理事。ゲイであることをオープンにしながら、GQやHuffPost、現代ビジネス等で多様なジェンダー・セクシュアリティに関する記事を執筆。教育機関や企業、自治体等での研修・講演実績多数。著書に『あいつゲイだって - アウティングはなぜ問題なのか?』(柏書房)、共著『LGBTとハラスメント』(集英社新書)など

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