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総手数254手! 山崎隆之八段、絶体絶命のピンチを切り抜け入玉し佐藤天彦九段に勝利 王将戦二次予選

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 8月4日。東京・将棋会館において第72期ALSOK杯王将戦二次予選▲佐藤天彦九段(34歳)-△山崎隆之八段(41歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は18時25分に終局。結果は254手で山崎八段の勝ちとなりました。

 山崎八段はこれで二次予選決勝に進出。リーグ入りをかけて豊島将之九段(32歳)と対戦します。

絶対にあきらめないのが山崎流

 本局は7月13日に予定されていましたが、佐藤天彦九段が新型コロナウイルスに感染したために8月4日に延期されました。その結果、明日5日の竜王戦本戦準決勝(広瀬章人八段戦)と連日対局が続くという強行日程となりました。

 振り駒の結果、佐藤九段先手。変幻自在の序盤作戦を見せる山崎八段、今日は居飛車の力戦形となりました。

 序盤早々、山崎八段は強く横歩を取り、もう後戻りはできない形となります。佐藤九段も強く反発して早々に戦いが始まりました。

 盤面全体を使っての戦いが延々と続いたあと、先に相手玉に迫る態勢を作ってリードを奪ったのは山崎八段でした。

佐藤「中盤はもう圧倒されてましたね」

 しかし佐藤九段は辛抱のあとに勝負と迫り、追い込みます。やがて勝敗不明の終盤に入りました。

 手数が150手を超えるあたりで優位に立ったのは佐藤九段。対して山崎八段は入玉含みに粘って勝負をあきらめません。

山崎「さすがに全然ダメだと思いましたけど」

 そうは言っても、こうした場面で絶対にあきらめないのが山崎流です。

 両者3時間の持ち時間を使い切っての一分将棋。山崎玉は何度も絶体絶命と思われるピンチに立たされます。しかし時間切迫のため佐藤九段が決め手を逃したか、山崎玉は佐藤陣に入り込む入玉(にゅうぎょく)を果たします。

 局後、両者は時間をかけて検討を続けました。しかしそう簡単に明快な決め手が見つかるような感じではなかったようです。

 山崎玉がつかまらなくなったあと、焦点は佐藤玉が入玉できるかどうか。もし点数勝負となれば、大駒4枚を持っている佐藤九段が有利です。

 山崎陣には、かつて玉を守っていた金金桂が残っていました。佐藤九段の攻めに応じて打った駒ですが、進んでみると佐藤玉の入玉を阻止するための強力な残存部隊となっています。

 山崎八段は着実に佐藤玉を追い詰め、最後は即詰みに討ち取りました。佐藤九段はしばらくうつむいたあと「負けました」と投了。総手数は実に254手の大熱戦に、ついに幕が降ろされました。

 なんともすさまじい一局でした。リアルタイムで観戦していた方は、2局分かそれ以上の見応えを感じたのではないでしょうか。

 本日、大阪・関西将棋会館でおこなわれた▲糸谷哲郎八段-△黒沢怜生六段戦は14時16分に終わって81手で糸谷八段勝ち。これで二次予選決勝のカードは以下のように確定しました。

1組 豊島将之九段-山崎隆之八段

2組 本田奎五段-服部慎一郎四段

3組 佐藤康光九段-糸谷哲郎八段

 上記対戦の勝者が藤井聡太王将への挑戦権を争うリーグに参加します。各棋戦でコンスタントに上位に進んでいる山崎八段。王将戦では意外なことに、まだ一度もリーグに入ったことがありません。

 佐藤九段は休む間もなく翌日、竜王戦本戦に臨みます。もし勝てば挑戦者決定三番勝負で山崎八段と対戦します。

 佐藤九段はハードスケジュールなので、感想戦は簡単に切り上げてもよさそうなところ、1時間以上にわたって真摯に検討を続けていました。やがて感想戦が終わったあと、山崎八段は佐藤九段の日程を気遣う言葉をかけます。佐藤九段は「自分の都合なんで仕方がないです」とさわやかに笑っていました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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