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失冠から捲土重来を期す豊島将之九段(31)棋王戦でベスト4進出! ライバル糸谷哲郎八段(33)を降す

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 11月16日。大阪・関西将棋会館において第47期挑戦者決定トーナメント4回戦▲糸谷哲郎八段(33歳)-△豊島将之九段(31歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は18時33分に終局。結果は128手で豊島九段の勝ちとなりました。

 豊島九段はこれでベスト4に進出。次戦で永瀬拓矢王座と対戦します。

やっぱり強い前竜王

「豊島九段」とは、どうも耳慣れない響きです。2018年に初タイトルの棋聖位を獲得して以来3年以上もの間、豊島九段はずっとタイトルを保持していました。しかし今年度、叡王、竜王のタイトルを藤井聡太現竜王(王位・叡王・棋聖)に明け渡し、無冠となっています。

 将棋界では以前、正式な肩書として「前竜王」という称号が使われていました。しかしここ二十年ほどは使われず、2020年、正式に廃止となりました。

 豊島前竜王はタイトルを6期保持する間、段位は八段から九段に昇段しました。現在の正式な肩書は九段とです。本局は「豊島九段」にとってはリスタートを期す最初の一局となりました。

 振り駒の結果、先手は糸谷八段に。戦型は角換わりで、糸谷八段は攻めの銀を手早く押し上げていく早繰り銀に出ます。対して豊島九段は腰掛銀から銀矢倉に組んで柔らかく受けました。

 糸谷八段の動きが一段落したあと、豊島九段は反撃に出ます。糸谷八段は棋風通り、自玉上部での戦いを怖がらず、中段玉でしのぎます。強気に応戦して飛を取り、すぐに豊島陣に打ち込んで、糸谷八段がややペースを握ったようにも見えました。

 しかし豊島九段は角角桂という使いづらい駒を手持ちにして、うまく手をつなげていきます。そして一気に糸谷陣を攻略。あっという間に優位に立ちました。

 糸谷八段は入玉を含みに中段玉で粘り続けます。対して豊島九段は糸谷玉を押し戻し、受けなしに追い込みました。

 糸谷八段は最後、銀矢倉の堅陣に収まったままの豊島玉に鋭く迫ります。豊島九段は正確に応じて詰みはなし。堂々たる内容で、ライバルを相手に勝利をあげました。

 両者のトータルでの対戦成績は糸谷6勝、豊島19勝となりました。

 豊島九段の今年度成績は18勝17敗(勝率0.514)となりました。

 このうち、藤井現竜王との対戦成績は3勝12敗。それをのぞけば15勝5敗で、他の棋士にはそれほど負けていないことがわかります。

 意外なことに、豊島九段はまだ棋王戦では五番勝負進出の経験はありません。ここから棋王挑戦、獲得となれば、早くも年度内にタイトル復帰です。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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