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将棋史上最強の棋士・羽生善治九段(51)逆転で豊島将之竜王(31)を降し王将リーグ2勝目

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月13日。東京・将棋会館において第71期ALSOK杯王将戦・挑戦者決定リーグ戦▲豊島将之竜王(31歳)-△羽生善治九段(51歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は19時59分に終局。結果は138手で羽生九段の勝ちとなりました。リーグ成績はこれで羽生2勝1敗、豊島1勝2敗となりました。

羽生九段「けっこう苦しい将棋だったんで、反省が多い将棋だったです。これから先も大変な対局が続くと思うんですが、精一杯やっていけたらいいかと思います」

豊島竜王「ちょっと大局観がおかしかったような気がします。2敗してしまいましたけど、残留に向けて一局一局、がんばっていきたいと思います」

 王将位通算12期ほか、タイトル獲得通算99期の羽生九段。100期チャレンジに向けて一歩前進しました。

 羽生九段は公式戦通算1487勝。メモリアルの1500勝まで、あと13勝としました。

 羽生九段は豊島竜王戦の連敗を7で止め、対戦成績を19勝24敗としました。

これが永世王将の底力

 豊島竜王先手で、作戦は相掛かり。羽生九段は現代最新の戦型を真っ向から受けて立ちました。豊島竜王が1歩を得するのに対して、羽生九段は手に乗って攻めの銀を中段に押し上げていきます。

 序盤の差し手争いのあと、53手目、豊島竜王が角筋を開いて角交換となり、駒がぶつかる本格的な戦いが始まりました。

 中盤でペースをにぎったと思われたのは豊島竜王。羽生九段の攻めの銀をさばかせず、角を打って王手飛車をかけ、駒得が確実な情勢となりました。

羽生「ずっと少しずつわるいんじゃないかと思って指してました。駒損ですし」

 豊島竜王は手にした飛車を羽生陣に打ち込み、浮いている駒をねらいます。対して78手目、羽生九段は銀を逃げず、桂を中段に跳ね出していきました。銀をタダで取らせる代償に豊島陣に迫ろうという発想で、形勢は巻き戻り、一気に混沌としていきます。まさに「羽生マジック」が見られたシーンだったのかもしれません。

羽生「こちらは他に指しようがなくなってしまったんで、まあ仕方がないかなと思ってました」

 猛然と追い上げていく羽生九段。駒台に添えた手が、少し震えました。

 羽生九段が金が利いているところに角を成り、さらにまた金が利いているところにもう1枚の角を打ちます。ハードパンチの連続で、ついに形勢は羽生九段優勢から勝勢へと推移していきました。

 123手目。豊島竜王は桂を成り捨て、本局2回目の王手飛車をかけます。羽生九段にとってはもちろんうっかりなどではなく、あえて王手飛車をかけさせ、勝ちをはっきりさせたわけです。

 126手目。羽生九段は震える手で豊島陣に金を打ちつけます。

羽生「△6七金打って、けっこう受けにくいんじゃないかと思いました」

 自陣に飛車を打って粘る豊島竜王。対して羽生九段は持ち駒にした桂を王手で打ち、押し切りました。

 138手目。羽生九段はタダで取られる地点に華麗に飛車を打ち、豊島玉を受けなしに追い込みます。その飛車を取れば豊島玉は詰み。

 残り4分の豊島竜王は時間を使い切り、一分将棋に追い込まれあと、54秒まで読まれ、次の手を指さずに投了を告げました。

 羽生九段の今年度成績は6勝11敗となりました。

 過去35年、ずっと勝ち越し続けてきた羽生九段。今年度は棋士人生始まって以来の不調かとも思われました。しかしここに来て2連勝。復調の兆しが見えてきたのでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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