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スキなし豊島将之挑戦者(31)またもやリード 藤井聡太王位(19)巻き返せるか? 王位戦第3局2日目

松本博文将棋ライター
有馬温泉の町並(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

 7月22日9時。兵庫県神戸市・中の坊瑞苑において、お~いお茶杯第62期王位戦七番勝負第3局▲藤井聡太王位(19歳)-△豊島将之竜王(31歳)戦、2日目の対局が始まりました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 対局がおこなわれる有馬温泉、中の坊瑞苑は王位戦における定番の宿です。

 対局室には豊島挑戦者、藤井王位の順に入り、それぞれの席に着きました。両対局者が駒を最初の位置に並べた後、立会人の谷川浩司九段が声をかけます。

谷川「それでは1日目の指し手を並べます。お願いします」

記録「先手・藤井王位▲2六歩。後手・豊島竜王△8四歩。・・・」

 記録係の棋譜読み上げに従って、両対局者は昨日1日目の指し手を再現します。戦型は角換わり腰掛銀に進みました。先に仕掛けたのは藤井王位です。対して豊島挑戦者は巧みに押し返していきました。

「▲7九玉」

 記録係が65手目を読み上げて、藤井王位は玉を引きます。ここまでが1日目の指し手でした。

 ここまでは豊島挑戦者がややリードしたのではないかと見る人が多かったようです。

 筆者手元の「水匠4」(最新コンピュータ将棋ソフト)では、評価値にして200点前後ほどの差。これはほぼ互角と言ってよさそうな数字です。

 封じ手の候補手としては4筋の銀を5筋に上がる手、端9筋を突き上げる手などが考えられました。

 手数が65手と長かったため、棋譜がすべて再現されたときには、定刻9時を過ぎていました。

谷川「それでは時間になっておりますので、封じ手を開封します」

 谷川九段が2通の封筒にはさみを入れて開封。中から封じ手用紙を取り出すと、持ち駒の銀に赤い丸がされ、横に線が引かれ、5四の地点にまで矢印が伸ばされて

いました。

谷川「封じ手は△5四銀打つです」

 豊島挑戦者は駒台に手を伸ばし、銀を持って、盤上に置きました。

谷川「それでは時間になっておりますので、対局を再開いたします」

 9時2分頃、両対局者は改めて一礼。2日目の対局が始まりました。

 藤井王位はペットボトルの「お~いお茶」を封を切り、グラスに注ぎます。おしぼりで丁寧に手を拭いてからお茶を飲み、記録係に声をかけて棋譜を受け取り、目を通しました。持ち時間8時間のうち、残りは藤井4時間16分、豊島4時間23分。1日目の消費時間はほぼイーブンです。

 封じ手が予想通りならば、すぐに次の手が指されることもよくあります。しかし藤井王位の手は動きません。藤井王位は豊島挑戦者の銀打ちをどこまで読んでいたのでしょうか。

 同銀と応じると豊島挑戦者の飛車筋が通ってくるので、なにか他の手はないかと思われるところ。藤井王位は代わる手は難しいと見たか、26分考え、同銀と応じました。豊島挑戦者も同銀。互いに4筋に飛車が向かい合う形ですが、豊島挑戦者の飛車の方がよく利いている印象もあります。

 69手目。藤井王位は桂が利いているところに歩を打ち、相手の飛の利きを止めます。豊島陣にはスキがないのに対して、藤井陣には銀を打たれるスキがあります。ここまで進んでみると、形勢はやはり豊島挑戦者がリードしているようにも見えます。筆者手元のソフトでは600点ほどの差がつきました。

 第1局は豊島挑戦者がほぼ完勝。第2局は藤井王位勝ちながら、途中までは豊島挑戦者よし。そして本局もまずは豊島挑戦者が優位に立ったとすれば、本シリーズここまで、豊島挑戦者の序中盤はスキなし完璧ということになりそうです。

 藤井陣のスキにすぐに銀を打つ手が見えるところ、豊島挑戦者は落ち着いてじっくりと考えています。

 昨日は竜王戦本戦▲八代弥七段-△久保利明九段戦がおこなわれ、八代七段が勝ちました。

 豊島竜王への挑戦権争いは永瀬拓矢王座、梶浦宏孝七段、藤井王位・棋聖、八代七段の4人にしぼられました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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