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先手・豊島将之挑戦者(31)角換わりを選択 後手・藤井聡太王位(18)早繰り銀で先攻 王位戦第2局

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

「それでは定刻になりましたので、挑戦者・豊島将之竜王の先手番で対局を開始してください」

 7月13日9時。北海道旭川市・花月会館において、お~いお茶杯第62期王位戦七番勝負第2局▲豊島将之竜王(31歳)-△藤井聡太王位(18歳)戦、1日目の対局が開始されました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 豊島挑戦者は8時48分頃、藤井王位は51分頃に入室。両者ともに夏らしい、涼やかな色合の着物です。

 駒を並べ終えたあと、両者はペットボトルの「お~いお茶」をあけ、グラスに注ぎます。豊島挑戦者はそれをすぐに飲み干しました。

 定刻9時、広瀬章人八段の合図で対局開始。豊島挑戦者は初手、飛車先の歩を進めました。

 藤井挑戦者はグラスに注がれた「お~いお茶」を飲んでから、こちらも飛車の前の歩を進めていきます。

 5手目、豊島竜王は角筋を開きます。10手目、藤井二冠は角を交換。戦型は角換わりとなりました。

 このあとは腰掛銀か、それとも早繰り銀か。本局では両者ともに早繰り銀を選びました。

 25手目。豊島竜王は1筋の歩を突き越します。あまり見たことのない序盤の進め方で、豊島挑戦者用意の作戦と思われます。ここまでの消費時間はわずかに3分。

 藤井二冠は12分考え、こちらは9筋を突き越しました。

 豊島挑戦者が6筋の歩を突いて自陣を整備したのに対して、ならばと藤井王位は7筋の歩を突き、先攻していきます。

 早繰り銀が五段目に出てきたところで、相手側は飛車先で継ぎ歩をし、十字飛車をねらって反撃するのがこの戦型によく見られる手段です。しかし31手目、豊島竜王はじっと銀取りに歩を打ちました。

「これは初めて見ました。えー、そんな手があるんですね」

 ABEMA解説の高野智史五段が早くも声をあげました。

 早くも緊迫した局面ですが、10時をすぎ、おやつの時間。対局室からは両対局者の姿が消えました。

 王位戦七番勝負の持ち時間は各8時間の2日制。1日目は18時に手番の側が封じ手をして指し掛けとなります。

 本局で立会人を務める広瀬八段は、少年時を北海道札幌市で過ごし、そこで腕を磨いて強くなった地元出身の棋士です。

 広瀬八段は34歳。また副立会人の高見泰地七段は27歳。立会人の年齢を足して61歳はタイトル戦史上、記録的な若さです。対局者も若ければ立会人も若い対局となりました。

 本局でいちばん緊張しているのは、初めて封じ手を預かる立場となった広瀬八段なのかもしれません。

 以下は参考までに。

 1983年9月1日・2日におこなわれた王位戦七番勝負第4局▲内藤國雄王位-△高橋道雄五段戦で正立会人を務めたのは中原誠十段(当時)。中原十段の誕生日は9月2日なので、1日目は36歳、2日目は37歳ということになります。副立会人は田中寅彦七段(当時)で26歳。足して62、3歳でした。

 また1993年11月16日・17日におこなわれた竜王戦七番勝負第4局は▲佐藤康光七段-△羽生善治竜王戦。立会人の谷川浩司王将と中村修八段(肩書はいずれも当時)はともに31歳でした。

合計年齢は竜王戦の立会人としては最年少なのだ。おそらく、他のタイトル戦を含めても最年少だろう。(小田尚英『第6期竜王決定七番勝負』)

 当時の文献にはそう記されています。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『あなたに指さる将棋の言葉』(セブン&アイ出版)など。

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