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カド番の斎藤慎太郎八段(28)びっくり意外な封じ手を披露! 名人戦第5局2日目始まる

松本博文将棋ライター
名人戦第5局、箱根決戦(提供:アフロ)

 5月29日9時。神奈川県箱根町・ホテル花月園において第79期名人戦七番勝負第5局▲斎藤慎太郎八段(28歳)-△渡辺明名人(37歳)戦、2日目の対局が始まりました。

 朝8時48分頃、斎藤八段入室。続いて49分頃、渡辺名人も姿を見せ、窓側の上座にすわりました。

 渡辺名人は駒箱から駒袋を取り出し、ひもをときます。盤上に駒をあける前に、さっと盤上を手のひらで払うのが渡辺流です。

 両対局者が駒を並べ終えたあと、立会人の深浦康市九段が声を発します。

深浦「では1日目の指し手を申し上げます」

 続けて、記録係の滝口勇作二段が1日目の棋譜を読み上げます。

滝口「先手、斎藤慎太郎八段▲2六歩。後手、渡辺明名人△8四歩・・・」

 1日目。後手番の渡辺名人は角換わりを避けて雁木に組みました。これは名人がたまに見せる指し方です。

 斎籐八段は腰掛銀から右四間飛車の布陣。雁木に対する有力な作戦の一つです。

 31手目。斎藤八段は右辺、雁木の正面から仕掛けていきました。おそらくは斎籐八段の事前準備の範囲内なのでしょう。1日目午前中にして早くも戦いが始まりました。

 左辺でも双方の駒がぶつかって、盤上は全面衝突。斎藤八段は王手飛車を含みとした手順で、相手の居玉上部に成桂を作りました。

 対して渡辺名人も飛車筋をいかして、斎藤玉の上部から攻め入ります。局面は早くも終盤戦の様相を呈してきました。

 54手目。渡辺名人は金取りに歩を打ちます。これは厳しい攻めの手。対して斎藤八段が同金と取れば、形勢はわずかに斎藤八段よしのようです。

 ここはおそらく取る一手――。斎藤八段は次の手を指さず、18時を迎えます。斎藤八段が55手目を封じて1日目の対局が終了しました。

 封じ手予想は、おそらくほとんどの方が▲8七同金だったでしょう。

深浦「では封じ手を開封します」

 2日目朝。深浦九段が前日預かった封筒にはさみを入れます。取り出された用紙には赤ペンで8八の金に丸がつけてあります。やはり▲8七同金だったか・・・。そう思われたところで、深浦九段が封じ手を読み上げました。

深浦「封じ手は▲8九金です」

 示された封じ手用紙をのぞきこむ渡辺名人は一瞬、意外そうな表情を見せました。

 斎藤八段が金につけた矢印は、間違いなく上ではなく下を向いています。さらには念のため、符号で「▲8九金」とも書かれています。

「えっ?」

 ABEMAで解説を務める増田康宏六段、加藤桃子女流三段はそんな声をあげました。多くの観戦者も同様の声をあげたのではないでしょうか。

増田「ちょっと意外でしたね」

加藤「意外ですね・・・」

 大いなる驚きの中、将棋名人戦2日目は始まりました。

 報道陣が退出したあと、渡辺名人は斎籐陣に角を打ち込みます。コンピュータ将棋ソフトが示す形勢表示を見ると、斎藤八段ややリードから、現在はほぼ互角へと戻ったようです。

 ちょうど9時半頃、斎藤八段が59手目を考慮中に、記録係から声がかかりました。

滝口「斎藤先生、残り4時間です」

 名人戦七番勝負の持ち時間は各9時間。2日目は昼と夕方の休憩をはさんで、通例では夜に終局となります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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