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鬼軍曹・永瀬拓矢王座(28)2年連続で棋聖戦挑決進出! 中村太地七段(32)との熱闘を制す

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 4月21日。東京・将棋会館において第92期ヒューリック杯棋聖戦準決勝▲中村太地七段(32歳)-△永瀬拓矢王座(28歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は19時59分に終局。結果は148手で永瀬王座の勝ちとなりました。

 永瀬王座はこれで挑戦者決定戦進出。藤井聡太棋聖(18歳)への挑戦権をかけて、渡辺明名人(36歳)と対戦します。

永瀬王座、二転三転の戦いに勝利

 振り駒の結果、先手は中村七段。戦型は角換わりとなりました。

 腰掛銀模様ながら、まだ腰掛銀と確定していない28手目。永瀬王座は6筋から歩を突っかけます。まだ応援の駒が前線に揃っていない状況での揺さぶり。消費時間9分という時間の使い方から、事前に綿密な準備があっての仕掛けと推測されます。

 中村七段は意表をつかれたか、長考に沈みます。昼食休憩明け、中村七段は反撃に出ます。この時点で持ち時間4時間のうち消費時間は中村1時間46分、永瀬9分と大きく差がついていました。

 中村七段は永瀬陣に角を打ち込み、自陣に成り返って馬を作ります。

 対して永瀬王座は相手の手に乗りながら攻め駒の飛銀桂を前へと進め、中村陣に照準を合わせます。形勢はわずかに永瀬ペース。消費時間も考えると、まずは永瀬王座がリードを奪ったようです。

「馬の守りは金銀3枚」という格言があります。中村七段は自陣の馬の手厚さを頼みに辛抱を続けました。相手の駒を呼び込むギリギリの順もおりまぜながら、きわどくバランスを保っていきます。

 永瀬王座は飛車を成って龍を作ったものの、自陣に押し返されて中村玉に近づくことはできません。中村七段の辛抱が功を奏し、また永瀬王座も時間を使って、ほぼ五分の状況へと戻りました。

 手数が100手を超えても形勢不明の状況が続く中、永瀬王座は右端1筋から攻めていきます。右辺に逃げている中村玉に近く、対応をする方はわずかのミスが致命傷になりそうなところ。中村七段は冷静に対応し、逆にポイントをあげて、抜け出したかに見えました。

 113手目。中村七段は銀を取りながら桂を成ります。常識的な攻め手。しかし代わりにトリッキーな不成もあったようです。永瀬玉には詰めろがかかるので、手は抜かれません。

 本譜、永瀬王座は一瞬の間隙をついて、手抜きで攻め合いに出ます。形勢は中村よし。ただし残り時間は中村8分、永瀬22分。時間が切迫する中、中村七段が勝ちを見つけられるかどうか、という状況になりました。

 中村七段は貴重な5分を割いて、銀打ちから王手をかけ、永瀬玉を追っていきます。永瀬陣は引き上げた龍の守備力が強い。永瀬王座はその龍を差し出す代償に、玉を広い左辺へと逃がしました。ここで形勢は逆転したようです。

 129手目。中村七段は金を取って持ち時間を使い切り、以後は一分将棋。対して永瀬王座は6分を使って、残り9分。相手陣の飛車を取らず、自陣に飛車取りに金を打ちつけます。これが永瀬流の負けない一手。正確な応手で勝利を確かなものとしました。

 中村七段は飛車を切って金を取り、永瀬玉へと迫ります。しかしわずかに足りない。

 147手目。中村七段は自陣の馬で香を取ります。序盤に作ったこの馬は、勝てばMVPとなった駒でしょう。本譜は最後、永瀬玉に詰めろをかけて、形を作る駒となりました。

 148手目。手番を得た永瀬王座は、中村陣二段目に飛車を打ちます。王手。中村玉は合駒を打てば詰みはありませんが、そうすると永瀬玉への詰めろが消えるため、見込みがありません。ここで中村七段は潔く投了しました。

 かくして挑戦者決定戦は永瀬王座と渡辺名人の対戦と決まりました。

 永瀬王座は2年連続で挑戦者決定戦に進出。昨年は当時17歳の藤井聡太七段に敗れ、史上最年少タイトル挑戦を許しました。もし挑戦権を得て五番勝負に進出すれば、リベンジマッチになると言えるかもしれません。

 一方の山から勝ち上がってきた渡辺名人は前棋聖。五番勝負では17歳の藤井挑戦者に1勝3敗で敗れ、史上最年少タイトル獲得を許しました。渡辺名人にとってもリターンマッチがかかっています。

 永瀬王座、渡辺名人、どちらが挑戦しても盛り上がることは必定。挑戦者決定戦も目が離せません。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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