リアル月下の棋士? 山崎隆之八段、勝てばA級の大一番で初手端歩、久保利明九段も2手目端歩で受けて立つ

(記事中の画像作成:筆者)

 2月4日10時。東京、大阪の将棋会館でB級1組順位戦12回戦、全6回戦が始まりました。

 A級昇級争い一番手の山崎隆之八段(39歳)は、残留を目指す久保利明九段(45歳)と対戦します。両者は関西所属。6局のうちただ1局、大阪での対局となります。

 幼少期から「天才」「名人候補」と言われ、「西の山崎、東の渡辺」として、渡辺明現名人と並び称される逸材だった山崎八段。しかし順位戦では思わぬ足踏みをしいられ、長らくB級1組にとどまってきました。

 そして今期。ついについに、あと1勝でA級というところにまでたどり着きました。

 山崎八段は永瀬拓矢王座(7勝3敗)と郷田真隆九段(7勝3敗)に星2つの差をつけ、大変有利な状況にあります。

 自身が勝たずとも、永瀬王座、郷田九段が敗れれば昇級が決まります。しかし順位戦は最後まで何が起こるかわかりません。全国の山崎ファンとしては、ここで勝って決めてもらいたいところでしょう。

 勝っても勝っても、次から次へと強敵が現れてくるB級1組。12回戦の久保九段はタイトル通算7期の名棋士です。

 久保九段は順位が上位のため、残留争いでは比較的有利な立場にありますが、それでもわずかに降級の可能性が残されています。

 山崎八段と久保九段は過去に16回対戦し、山崎9勝、久保7勝という数字が残されています。直近では2020年3月、棋聖戦本戦1回戦で対戦しました。

 この時、山崎八段は初手に9筋の端歩を突いています。阪田三吉(贈名人・王将)の昔から、最初に端歩を突くのは、盤上の戦略を超越したパフォーマンスと見なされてきました。

 対して久保九段もまた2手目、端歩を突き返しています。もちろん現代将棋には最初から細かい駆け引きがあり、早い段階で端を突くのもそれなりの理論の裏打ちがあると思われますが、やはりそれ以上に勝負に臨む人間同士、意地の張り合いもあるのでしょう。

 最初に端歩の突き合いは、漫画『月下の棋士』では出てきます。

氷室「・・・どうした? 先手 9六歩だ・・・!!」

村森「・・・後手9四歩や」「虎穴に入らずんば、虎子を得ず」

氷室「くっ・・・」「なんだ、そりゃ?」

村森「――危険は、勝利への代償・・・!!」

(出典:能條純一『月下の棋士』第1巻)

 しかしプロの公式戦ではもちろん、ほとんど前例がありません。

 棋聖戦では端歩の突き合いのあと、山崎八段は新種の「パックマン」に誘導します。わざと6筋の歩をタダで取られるところに突き出し、相手に取らせてカウンターを狙うという手法です。アマチュア低級者同士の「はめ手」にも類する戦法のようにも思われますが、少し形をアレンジした上で、現代トップクラスの棋士にぶつけたわけです。まさに才気煥発の山崎流でした。

 実戦では久保九段はパックマンの誘いには乗らず、歩を取らずに三間飛車に振ります。対して山崎八段は中飛車に振ったあと居飛車に戻す変幻自在の指し回し。最後は久保九段の寄せをしのぎ、一瞬の切れ味で久保玉を詰ませています。

 本局もまた、先手は山崎八段となりました。万感の思いが込められていたのか。山崎八段は初手に3分を使います。そして初手、またもや端9筋を突きました。勝てばA級という大一番で、このパフォーマンス。全国の山崎ファンは朝から目頭が熱くなったのではないでしょうか。

 対して久保九段。やはり3分を使いました。そしてまたも2手目、端を受けます。もうこの序盤だけで、本局は歴史に残ることでしょう。

 山崎八段はまた新パックマンを匂わせる陣立て。対して久保九段はかまわず向かい飛車へと振りました。

 33手目。山崎八段は玉を右側へと移動させました。振り飛車に対しての右玉は、森信雄七段門下の弟弟子、糸谷哲郎八段が得意とした手法でもあります。糸谷八段は昨日おこなわれたA級順位戦8回戦において、勝って残留を決めています。

 時刻はそろそろ14時半。現在は山崎八段が35手目を考えています。

 B級1組順位戦は持ち時間各6時間(ストップウォッチ方式で60秒未満切り捨て)。昼食休憩、夕食休憩をはさんで、通例では夜遅くに決着します。

 山崎八段は2月14日、40歳の誕生日を迎えます。四十代で初めてA級に昇級した例は、過去に数えるほどしかありません。

 また今期で順位戦参加23期目の山崎八段がA級に昇級すれば、屋敷伸之九段の22期を抜いて、史上最長期間でのA級初昇級達成となります。