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レジェンド羽生善治九段(50)A級在籍29期目に向け大きな3勝目! 稲葉陽八段(32)を降す

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月21日。東京・将棋会館においてA級順位戦7回戦▲稲葉陽八段(32歳)-△羽生善治九段(50歳)戦がおこなわれまました。

 10時に始まった対局は23時35分に終局。結果は110手で羽生九段の勝ちとなりました。

 リーグ成績はこれで羽生九段3勝4敗、稲葉八段2勝5敗。羽生九段は残留に向けて大きな一番を制しました。

 A級8回戦一斉対局は2月3日におこなわれます。

羽生九段、鮮やかな勝利

 稲葉八段先手で、戦型は相掛かり。後手の羽生九段が積極的に攻めの銀を前に進めるのに対して、稲葉八段は大駒の飛角を動かしてけん制します。

 角交換のあと、羽生九段は中段に角を打って稲葉八段の飛車の動きを制限します。盤面の左右で競り合いが起こる、相掛かりらしい中盤戦となりました。

 夜戦に入ったあと、稲葉八段には大きな岐路が訪れます。飛車を切り、銀と刺し違えて攻め続けるのか。それとも飛車を撤退して態勢を立て直すのか。本譜、稲葉八段は飛車を引き上げました。

 56手目。羽生九段は攻めの銀を成り込み、強く踏み込んでいきます。このあたりから次第に、形勢は羽生九段よしとなりました。

 稲葉八段は桂を中段に跳ね出して反撃します。一方で羽生九段は自陣に銀を打ち、自玉に迫る相手の桂を取りました。これが攻防手。桂を手にすれば王手飛車取りの筋を狙えます。

 稲葉八段はストレートな王手飛車を避けて、あらかじめ飛車を切りました。羽生九段は手持ちにした飛車を2筋中段に打ちます。さらには封じ込められていた8筋の飛車も世に出て、稲葉陣へと成り込みました。二枚飛車で稲葉玉を左右はさみ撃ちにするセオリー通りの着実な寄せです。

 羽生九段は1枚の飛車を切り、上下はさみ撃ちにして寄せの網をしぼります。

 稲葉八段は取り返した飛車を羽生陣に打ち込んで王手。羽生玉を部分的に受けなしに追い込みながら自玉上部を開きます。達人同士、やはり最後は一手違いのきわどい形となりました。羽生九段が席を立っている間、稲葉八段は小さく首をひねりました。

 席に戻ってきた羽生九段。稲葉玉に歩を打って、王手。稲葉八段は一瞬、頭に手をやる仕草を見せました。羽生九段は龍(成飛車)で稲葉玉を下から追い上げます。

 稲葉玉には二十数手かかる長手数の詰みがあります。前節の豊島将之竜王戦、羽生九段は時間切迫で勝ちきれませんでした。本局では比較的時間に余裕があります。羽生九段は鮮やかに読み切りました。

 110手目。羽生九段は自陣の桂を跳ねて王手をかけます。盤上すべての駒をはたらかせるような指し回しで、稲葉玉を即詰みに討ち取りました。

「負けました」

 稲葉八段は小さな声でそう告げて、投了の意思を示しました。

「ありがとうございました」

 羽生九段は一礼を返したあと、一局を振り返るように、しばらく中空を見つめていました。

 羽生九段は29期目のA級以上在籍に向け、実に大きな勝利をあげました。

 対して稲葉八段は依然苦しい立場。昨年はギリギリで残留を決めました。今期はどうなるでしょうか。

 A級8回戦。羽生九段は広瀬章人八段、稲葉八段は斎藤慎太郎八段と対戦します。

 羽生九段と稲葉八段の対戦成績は、羽生九段9勝、稲葉八段2勝となりました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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