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A級1期目・斎藤慎太郎八段(27)元名人・佐藤康光九段(51)を降して挑戦争い首位キープ

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月12日。東京・将棋会館においてA級順位戦7回戦▲斎藤慎太郎八段(27歳)-△佐藤康光九段(51歳)戦がおこなわれました。10時に始まった対局は0時20分に終局。結果は121手で斎藤八段の勝ちとなりました。

 斎藤八段はこれでリーグ6勝1敗。A級1期目にして依然名人挑戦権争いのトップを走っています。

 一方の佐藤九段は3勝4敗で黒星先行となりました。

斎藤八段、名人挑戦にまた一歩前進

 斎藤八段は今期がA級1期目。対して佐藤九段は名人位2期を含め、A級以上通算24期の実績を誇ります。

 斎藤八段は6回戦、三浦弘行九段に勝って星を伸ばしています。

 一方の佐藤九段は3勝1敗からの連敗。5回戦で羽生九段に大逆転負けを喫しました。

 会長職の激務で東奔西走の佐藤九段は一昨日、静岡県の掛川城でおこなわれた王将戦第1局では開始時、盤側に座っていました。

 関西本部所属の斎藤八段は本局、アウェイの東京に遠征しての対局です。

 先手は斎藤八段。オーソドックスな居飛車党の斎藤八段に対して、後手番の佐藤九段は変幻自在。まずは佐藤九段の作戦が注目されるところでした。

 斎藤八段は左美濃から腰掛銀という現代風の布陣です。

 対して佐藤九段は玉の動きを保留したまま中央三段目に銀を2枚並べる昔ながらの「雁木」に組み上げます。そして昼食休憩前、佐藤九段から見て右の位置、6筋に玉を上がる「右玉」に組みました。定跡形からはずれたところで、力と力で勝負しようという、いつもながらの意気が感じられます。

 午後の戦いに入ると、佐藤九段は居玉に戻し、そのまま左側へと移動していきます。その局面だけをストップモーションで見ると、昔ながらの雁木のようですが、最初から並べてみれば、序盤で細かい駆け引きがあったことがわかります。

 中盤は駒組合戦。斎藤八段が上部に模様を張って盛り上がったのに対して、佐藤九段は低く構えて待ちます。

 駒がぶつかって本格的な戦いが始まったのは、夜に入ってからでした。斎藤八段が駒組段階でペースをつかみ、戦機をとらえてうまく仕掛けたようです。

 2筋奥、地下壕にひそんでいるような佐藤玉。斎藤八段はその上の角を攻めます。最初は6筋下段にいた左美濃の金は、相手の反撃に対応しながら、手に乗って佐藤玉の近くにまで遠征しました。

 佐藤九段はスーツのジャケットを脱いでベスト姿。斎藤玉に迫って一手違いの形に持ち込みます。

 佐藤九段が席をはずしている間、斎藤八段は大きなため息をつきました。形勢はそう簡単ではないという気持ちの表れでしょうか。

 斎藤八段は楽観することなく、着実に優位を拡大していきます。そして勝勢を築きました。

 斎藤八段の攻めに応じるうち、佐藤玉はいつしかもとの5筋下段、初期位置へと戻ります。

 斎藤八段はセオリー通り、左右はさみうちの寄せ。最後は佐藤九段の飛車を取った手が、ぴったり詰めろ逃れの詰めろとなりました。

 佐藤九段は最後、斎藤玉に王手をかけて形をつくったあと、静かな声で投了を告げました。

 斎藤八段は6勝1敗でA級首位キープ。残る2戦、稲葉陽八段、佐藤天彦九段と対戦し、両者に勝てば無条件で名人挑戦が決まります。

 佐藤九段は3勝4敗。今期名人挑戦の可能性はなくなりました。残る2戦は残留を目指し、豊島将之竜王、菅井竜也八段と対戦します。

 コロナ禍による緊急事態宣言下での対局。感想戦は短めに二十数分で終わりました。

 明けて本日13日は、豊島竜王-三浦弘行九段戦、佐藤天彦九段-菅井八段戦の2局がおこなわれます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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