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王将戦七番勝負第1局▲渡辺明王将-△永瀬拓矢挑戦者戦、激しい戦い始まり形勢互角のまま1日目終了

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月10日。静岡県掛川市、掛川城・二の丸茶室において第70期王将戦七番勝負第1局▲渡辺明王将(36歳)-△永瀬拓矢王座(28歳)戦、1日目の対局がおこなわれました。

 戦型は角換わり腰掛銀。前例のある展開とはいえ、先手の渡辺王将が桂跳ねから仕掛け、午前中から激しい展開となりました。

 53手目。渡辺王将は4筋の歩を突っかけます。角換わり腰掛銀ではこの筋の歩を突いてから仕掛けていく筋は昔からよく見られました。スピード重視の現代最前線。この仕掛は先に桂を跳ねて捨て相手の玉形を乱し、それから歩を突くというリズムです。ここで永瀬挑戦者が時間を使って考え始めました。

 12時。掛川の町に防災無線で「故郷」(ふるさと)のメロディーが流れます。将棋会館での対局ではここで昼食休憩に入りますが、王将戦七番勝負は12時30分からです。永瀬挑戦者は次の手を指さず、休憩に入りました。

 13時30分、再開。永瀬挑戦者は突かれた歩を取ります。両対局者のひざの上にはブランケットが置かれるようになりました。

 午後の戦場は先手の永瀬陣から見て左側中段。こちらに両者の戦力が集結していきます。

 渡辺王将は6筋に自陣桂を打ち、すぐに7筋に跳ねて捨てます。華麗な攻め手順。しかし両者の指し手の早さからして、このあたりも事前に想定されているのかもしれません。

 中段の永瀬玉近くでのせめぎ合いのあと、駒割は角と銀の交換で先手の渡辺王将が得をしました。しかし全体的にはバランスが保たれています。

 永瀬挑戦者は再び長考に入ります。17時。「遠き山に日は落ちて」のメロディーが掛川の町に流れました。

 76手目。永瀬挑戦者は1時間22分の長考で自陣に銀を埋めました。いかにも永瀬好みといった手厚い受けです。

 永瀬挑戦者が席を立ち、盤の前にひとり残された渡辺王将。

渡辺「はー、これがわかんない・・・」

 そんなつぶやきが聞かれました。封じ手を意識する時間帯。渡辺王将が記録係の伊藤匠四段に問いかけます。

渡辺「いま時間、何時なんですか?」

伊藤「17時43分です」

渡辺「はい」

 ほどなく、渡辺王将は伊藤四段に図面を全部書くように頼みました。

 18時。立会人の森内俊之九段が声をかけます。

森内「渡辺王将が次の手を封じてください」

 渡辺王将は消費時間を尋ねたあと、77手目を封じる意思を示しました。

 封筒にサインするのも初体験の永瀬挑戦者。敷物の上に封筒を置いて、丁寧にサインをしていました。

 渡辺王将が森内九段に2通の封じ手を預けて1日目終了。

 形勢も消費時間もほぼ互角。筆者手元のコンピュータ将棋ソフト「水匠2」は中央に歩を突き出して攻め続ける手を封じ手の本命として示しています。

 明日2日目は朝9時、封じ手を開いて対局が始まります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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