Yahoo!ニュース

どちらもタイトルクラス? 波平さんは藤井猛九段流の振り飛車党で、マスオさんは羽生善治九段流の居飛車党

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成、写真撮影:筆者)

 12月27日にフジテレビで放映されたアニメ「サザエさん」において、波平さんとマスオさんによる将棋の対局シーンがあったことが将棋ファンの間で話題となっています。

 まず磯野家に置かれている将棋盤が立派です。プロの公式戦でも使われるような厚さで、くちなしの形の脚までついています。これだけで、盤を使う人の実力が伝わってくるようです。

 両者の駒の文字までは読み取れませんが、向きはほぼわかります。配置はおおよそ次の通りでした。

 熱心な将棋ファンであれば、だいたいの模様はわかりそうです。

 まず両者の陣形で特徴的だと思われるのは、図の手前から見て、波平陣の左側です。これは飛車を右辺に移動させる「振り飛車」から、玉を左側に移動させているものと思われます。

 となれば、手前のマスオさんの陣形は居飛車で、玉の周りに金銀4枚が集結しているところでしょう。

 持ち駒はイーブンとして、駒台の並び方からすれば、大駒(飛と角)のどちらかが上に1枚。あとは歩が2枚と推測できそうです。

 また全体的な形状から見て、波平側は角換わり振り飛車の可能性が高そうです。

 問題なのは右辺中段の3枚の駒です。これがなかなか特定しづらい。作画上はマスオ側の駒のように描かれています。しかしそうすると、右から4番目の筋(4筋)の中段になぜマスオさんの駒がいるのかなどは、よくわからないのです。よって中段の駒の向きは適当に描かれているのかもしれない。

 そのあたりまでは筆者クラスでも推測できました。ネット上でも多くの将棋愛好者がいろいろな考察をしていました。

 ところで2019年。サザエさんでの囲碁の対局について、囲碁クラスタがその棋譜を特定していました。

 将棋で特定できないとなれば、将棋クラスタの名折れ(?)かもしれません。

 ▲マスオ-△波平戦に近い実戦例を指摘したのは、将棋観戦記者の銀杏記者でした。

 もしまだ解答をご存知ない方のためにクイズとして出題してみましょう。▲マスオ-△波平戦とは少し形が異なっていた有名な実戦例。この駒の配置からおわかりになるでしょうか。

「なんだ、これならわかるよ!」

 そう思われた方がいたとすれば、相当な将棋通でしょう。

 では、解答です。

 銀杏記者の指摘によれば、▲マスオ-△波平戦は、第58期(2010年)王座戦五番勝負第1局▲羽生善治王座-△藤井猛九段戦の途中図に似ているというわけです。

 棋譜は公式ページで公開されているのでそちらをご覧ください。

 また日本将棋連盟のFacebook公式ページのヘッダーにも使われているようです。

 以上を指摘した銀杏記者はさすがでした。さすがは若くして「将棋博士」と言われるナイスガイ。将棋クラスタの面目を保ったというところでしょう。

 羽生善治九段は言うまでもなく、タイトル獲得通算99期のレジェンド。一方の藤井猛九段は竜王位通算3期などの実績を誇る、現代振り飛車党のカリスマです。

 厳密に言えば▲マスオ-△波平戦と▲羽生王座-△藤井九段戦に細かい違いはありますが、おおむねタイトル戦と同じような進行をたどっているのかもしれません。となれば、マスオさん、波平さんは、羽生現九段、藤井九段クラスの技量ありと言えそうです。

 ▲羽生-△藤井戦はこのあと、熱戦の末に羽生勝ちとなっています。▲マスオ-△波平戦はどのような結末となったのでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

松本博文の最近の記事