Yahoo!ニュース

鬼軍曹・永瀬拓矢王座(28)王将位挑戦まであと1勝! 豊島将之竜王(30)との全勝対決を制す

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 11月17日。東京・将棋会館において王将戦リーグ▲永瀬拓矢王座(28歳)-△豊島将之竜王(30歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は20時18分に終局。結果は169手で永瀬王座の勝ちとなりました。永瀬王座はこれで5勝0敗。豊島竜王は4勝1敗となりました。

 11月20日におこなわれるリーグ最終戦のカードは以下の通りです。

 △永瀬拓矢王座(5勝0敗)-▲広瀬章人八段(2勝3敗)

 ▲豊島将之竜王(4勝1敗)-△羽生善治九段(4勝1敗)

 ▲藤井聡太二冠(2勝3敗)-△木村一基九段(0勝5敗)

 ※佐藤天彦九段(1勝5敗)は全局終了

 永瀬王座は広瀬八段に勝てば6戦全勝で挑戦権獲得。敗れた場合には豊島竜王-羽生九段戦の勝者とプレーオフ(挑戦者決定戦)を戦うことになります。

永瀬王座、判断の難しい一局を乗り切る

 両者の過去の対戦成績は互いに6勝で五分。叡王戦七番勝負の激闘は記憶に新しいところです。

 本局、永瀬王座の先手で戦型は相矢倉に。叡王戦七番勝負第3局で指された先後同型「脇システム」の形となりました。

 隣室でおこなわれていた▲羽生善治九段-△木村一基九段戦も相矢倉となりました。ただしそちらは木村九段が急戦に出て、全然違う展開に。矢倉もまた大変多くのバリエーションがあります。

 本局は永瀬二冠が棒銀で攻めたのに対して、豊島竜王は永瀬陣に角を打ち込んで馬を作り、カウンターをねらう展開に。両者ともに経験があり、また研究も深いところなのか、午前中からどんどん手が進んでいきます。

 55手目。永瀬王座は豊島玉に歩を打って王手。こののっぴきならない局面で豊島竜王は長考に入り、そのまま昼食休憩に入りました。

 再開後、豊島竜王は王手で打たれた歩を金で取ります。永瀬二冠は金香交換の駒得をしながら馬を作るという戦果をあげたのに対して、豊島竜王は香2本で相手の攻め駒を追いながら成香を2枚作り、反撃に転じました。

 進んで駒割は角1枚と銀桂香の3枚を交換となって、豊島竜王が逆に駒得に。ただし玉形は永瀬王座の方が堅く、永瀬王座が攻勢を取っていて、総合的にはバランスが取れているようです。

永瀬「基本的にはかなり判断が難しい印象でもあったんですけど、先手の方が駒が少ないので、長期戦になると厳しいイメージがあったので。じり貧にならないように気をつけながら指していました」

 77手目。永瀬王座は▲4四角と打って、2二玉に王手をかけます。

豊島「▲4四角と王手されたときに長考したんですけど・・・。はじめは互角ぐらいあるような感じがしたんですけど」

 豊島竜王は59分の長考に沈みます。そして銀を合駒に打って王手を防ぎました。

豊島「そこからちょっと苦しいと思って。そのあと、難しくなったのかもしれませんけど、わからなかったというか。ちょっとでも、勝ちづらいのかなと感じながら、もっといい手があったかもしれません」

 途中、豊島竜王はカロリーメイト、永瀬王座はバナナで栄養補給をしました。叡王戦七番勝負で示されたように、両者の対局はよく大熱戦となります。本局もまたこのあと、長期戦となりました。

 中盤の終わりあたりでは、永瀬王座がリードを奪ったようです。豊島玉はピンチに陥ります。しかし豊島竜王はしのいで押し戻し、形勢不明の終盤となりました。

永瀬「少し自信があるような気がしたんですけど、ただ、うーん、気のせいだったかもしれないので。判断が難しいと思っていました」

 隣室でおこなわれていた▲羽生九段-△木村九段戦は先に終局。羽生九段が勝ちました。

 進んで本局。形勢は次第に混沌としてきたかとも思われました。

 しかし永瀬王座は崩れませんでした。自玉の上部を開拓しながら駒得を重ねます。▲8六歩と自玉の頭の歩を突いて天窓を開き、入玉を目指して上部に逃げ出す形を得ました。永瀬王座得意の負けづらい指し方が続き、形勢ははっきり永瀬王座よしとなりました。

永瀬「入玉形はけっこう判断が難しい要素が増えてくる印象があるので、一つ一つ気をつけながら指していたつもりだったんですけど。▲8六歩と突いたところは、入玉自体は可能かなと思ったんですが、1八に飛車が残っている状態なので、取られてしまうと持将棋になってしまうので、そこは気をつけてはいました」

 139手目。永瀬王座はここでまたバナナを食べます。勝ち急がず、長くなるのをいとわないという姿勢を示しているような感もあります。

 150手目。豊島竜王は自陣一段目に桂を打って上下はさみうちの形を作ろうとします。ここで4時間の持ち時間を使い切って、あとは一分将棋。対して永瀬王座は23分を残しています。

 少しでもゆるめばすぐにも逆転しそうなところ、永瀬王座は誤りません。最後は永瀬玉がつかまらず、豊島玉は受けがない状態に。豊島竜王は攻防ともに見込みなしと見て、投了しました。

永瀬「本局も含めて厳しい戦いが続いているので、がんばりたいと思っています」

 リーグ初参戦ながら5戦全勝の永瀬王座。あと1勝で挑戦権獲得というところまで迫りました。

 豊島竜王は最終局、羽生九段戦に勝てばプレーオフの可能性を残すことになります。

 豊島竜王、永瀬王座の対戦成績は、これで豊島6勝、永瀬7勝となりました。

画像

 各棋戦で常に上位に進出している両者。22日には将棋日本シリーズ・JTプロ公式戦決勝で優勝をかけて対戦します。

画像
将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『あなたに指さる将棋の言葉』(セブン&アイ出版)など。

松本博文の最近の記事