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杉本和陽四段(29)第6期叡王戦・開幕戦を制す 伊藤匠新四段(18)はほろ苦いデビュー戦

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月31日。東京・ABEMAスタジオにおいて第6期叡王戦四段予選▲杉本和陽四段(29歳)-△伊藤匠四段(18歳)戦がおこなわれました。

 持ち時間は各1時間(チェスクロック方式)。10時に始まった対局は12時9分に終局。結果は101手で杉本四段の勝ちとなりました。

 本局がデビュー戦だった伊藤四段にとっては、ほろ苦い初黒星となりました。

手元にお菓子BOX! 夢ある叡王戦開幕

 既報の通り、叡王戦は第6期から不二家の主催となりました。

 これまでは夏に始まっていた段位別予選。しかし第5期七番勝負が歴史的な死闘となり、またスポンサーの交替などもあって、今期は秋の開幕となりました。

 昨年の四段予選には女性棋界の第一人者である里見香奈女流五冠(現四冠)も参加。1回戦では黒田尭之四段を破りました。またアマチュア予選を勝ち抜いた鈴木肇アマ名人も参加していました。

 今期は女流棋士、アマチュアの参加枠は設けられませんでしたが、来期以降はまた検討されるようです。

 杉本和陽四段は2003年に小学生名人戦で優勝。故・米長邦雄永世棋聖の最後の弟子にあたり、2017年4月に四段昇段。棋士としてデビューしました。

 伊藤匠四段は宮田利男八段門下。2020年10月に棋士となったばかりです。また2002年10月10日生まれで、年齢もまだ18歳になったばかり。同年7月19日生まれの藤井聡太二冠(18歳)をわずかに抜いて、現在は伊藤四段が最年少棋士となりました。

 駒を並べる前に振り駒がおこなわれ、「歩」が3枚、「と」が2枚出て、先輩の杉本四段先手と決まりました。

 杉本四段はオーソドックスな大橋流で駒を並べていきます。

 一方の伊藤四段。その名の通りに、伊藤流で並べていきます。ここでまずネットを通して観戦しているファンからはどよめきが起こりました。

 江戸時代に始まった将棋宗家の一つである伊藤家からは初代宗看以下、5人の名人が輩出されています。伊藤匠四段は、将棋史上6人目となる「伊藤」の名がつく名人となれるでしょうか。

 対局者の脇にはそれぞれ、不二家のお菓子BOXが置かれているのが目をひきます。対局者は対局中にお菓子を食べるのもよし。持って帰るのも自由だそうです。

 先日、不二家の主催が発表されて以来、ネットでは、不二家のお菓子を買ったというファンの書き込みが多く見られるようになりました。将棋界を応援してくれるスポンサーを応援したくなるのもまた、ファン心理というものです。

 定刻10時、対局開始。振り飛車党の杉本四段は、向かい飛車から穴熊に組みました。対して伊藤四段は銀冠の構えです。

 中盤、駒がぶつかると、杉本四段はうまくさばいてペースをつかみました。対して伊藤四段はただで取られるところに銀を打つ勝負手を放ちます。びっくりしそうなところですが、杉本四段は落ち着いて対応。はっきり優位に立ちました。

 終盤。杉本四段はリードを保って着実に伊藤玉を寄せていきます。

「大器」と評判の伊藤四段。本局ではその実力が発揮されなかったかもしれません。自玉に王手がかけられる中、スーツのジャケットを着て、マスクをつけました。101手目、角で王手をされたのを見て「負けました」と投了を告げました。

 常套句を使えば、伊藤四段にとってはほろ苦いデビュー戦となりました。

 勝った杉本四段は次戦、井出隼平四段-山本博志四段戦の勝者と戦います。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『あなたに指さる将棋の言葉』(セブン&アイ出版)など。

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