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羽生善治九段(50)タイトル100期に向け大きな1勝 竜王戦第2局で豊島将之竜王(30)の粘り許さず

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月22日、23日。愛知県名古屋市、亀岳林・万松寺において第33期竜王戦七番勝負第2局▲豊島将之竜王(30歳)-△羽生善治九段(50歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 22日9時に始まった対局は23日17時10分に終局。結果は96手で羽生九段の勝ちとなりました。

 七番勝負はこれで豊島竜王1勝、羽生九段1勝のタイとなりました。

 第3局は11月7日・8日、京都市、総本山仁和寺でおこなわれます。

羽生九段、鮮やかに寄せて1勝

 豊島竜王先手で戦型は角換わりに。

 1日目は羽生九段が60手目を封じて指し掛けとなりました。

羽生「よくわからなかったですね・・・。封じ手前後は手が広いところだったんで。ちょっとどういう展開になるのか。予測全然できなかったですね」

豊島「わからなかったですね。ちょっと苦しいような気もしたんですけど。自信はなかったんですけど、はっきりまずいのかどうか、そこまではわからなかったです」

 両対局者ともに「わからない」という難しい中盤戦。豊島竜王は相手に駒を渡すリスクは承知の上で、羽生玉に王手をかけて攻めていきます。対して羽生九段は的確に対応。形勢は次第に羽生優勢がはっきりしました。

 羽生九段よしで迎えた終盤戦。とはいえ、一手でも誤ればたちまち逆転しそうな展開でした。

羽生「ずっとはっきりしないというか、きわどい展開なんじゃないかなと思って指してたんで。難しい局面が続いてると思っていました」

 豊島竜王は本局まで公式戦7連勝中。その中には逆転勝ちが何局も含まれています。苦しい局面を耐えて、相手が間違えれば見逃さない。それもまた豊島竜王の実力です。

 76手目。羽生九段はただで取られるところに、銀を打って王手をかけます。しかしこの銀を取れば寄り形に。豊島竜王は銀を取らずに逃げてこらえます。

 86手目。羽生九段は飛車取りの局面で飛車を逃げず、銀を打ちました。そのしぐさ、表情、手つきからは、羽生九段が勝ちを読み切ったようにも見て取れました。とはいえ、この一連の寄せの組み立ては、そう簡単なものではありません。さすがは羽生九段という場面でしょう。

 もし豊島竜王が飛車を取れば、やはり寄り形となります。しかし適当な受けも難しい。

羽生「なんとか寄ってるんじゃないかと思って。その手順が見えて、勝ちになったかなと思いました」

 進んで91手目。豊島竜王は飛車を取ります。形勢は羽生九段勝勢。そこですぐに次の手を指さず、いったん席を立つところなども、さすが百戦錬磨と思わせます。盤の前に残された豊島竜王は、正確に指されれば望みのない局面を、一人じっと見つめていました。

 席に戻ってきた羽生九段。角を打って王手をかけます。銀の合駒に対して、さらにもう1枚角を打ちつけるのが正確無比な決め方。豊島玉はがんじがらめで、いよいよ受けがありません。

「一歩千金」とは羽生九段がよく揮毫する言葉です。その通り、羽生九段の駒台に乗せられた歩の1枚までが、どんな変化にもぴったりと足りていました。

 95手目。豊島竜王は飛車を打って羽生玉に王手をかけます。これは及ばずながらという形作り。そこで脱いでいた青い羽織を手にして席を立ちました。

 対局室に戻ってきた豊島竜王は羽織を着ています。そして席についたあと、マスクをつけました。

 対して羽生九段もまた席を立ちます。一人残された豊島竜王。しばらくは盤から目を離して、中空を見上げていました。

 席に戻ってきた羽生九段。まだ時間には余裕があります。慎重に10分を使って銀を引き、王手を受けました。

 豊島竜王は攻防ともに手段のない局面を、1分ほど見つめていました。やがて右手を駒台に伸ばして「負けました」と静かに一言。羽生九段も深く一礼を返して、終局となりました。報道陣を待つ間、羽生九段もまたマスクをつけました。

 七番勝負はこれで両者ともに1勝1敗となりました。

羽生「引き続きいい将棋が指せるようにがんばっていきたいと思います」

豊島「気持ちを切り替えてまた、がんばりたいと思います」

 第3局に向けて、両者はそう抱負を語っていました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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