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藤井聡太二冠(18)順位戦通算34勝1敗! B級2組6回戦で強敵・村山慈明七段を押し切る

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月21日。大阪・関西将棋会館においてB級2組順位戦6回戦▲藤井聡太二冠(4勝0敗)-△村山慈明七段(2勝2敗)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は23時24分に終局。結果は97手で藤井二冠の勝ちとなりました。

 藤井二冠はこれでB級2組5連勝。順位戦通算成績も34勝1敗(勝率0.971)としました。

 敗れた村山七段は2勝3敗となりました。

藤井二冠、全勝ターン

 後手番の村山七段は横歩取りに誘導。現代最前線の進行となりました。

 28手目。村山七段は飛車の侵入を防ぐために銀を上がって受けます。

 対してこの次の手。コンピュータ将棋ソフトはここで、先手の藤井二冠も銀を上がって自陣を整備する手を最善と示していました。

 藤井二冠はここで6分の考慮。そしてソフトが示す手は選ばず、自陣にできていた相手のと金を飛車で取ります。その手を指したあと、上着を脱いでワイシャツ姿になっていた藤井二冠は、ウェットティッシュで念入りに顔をぬぐいました。

 村山七段の手はここで止まります。実はこの段階で、想定していた本線の進行からははずれたようです。

村山「横歩取りは作戦だったんですけれども、ちょっと序盤、想定していた形よりも少し損な形になってしまって。本譜は(藤井二冠が)▲2七飛車ってと金を払った手があるんですけど、ちょっとあまりそれは、そんなに考えてない手だったので。本譜はちょっと妥協した展開になってしまって。少し手損が響くような展開になってしまいました。序盤は少し面白くないな、と思いながら指してたんですけど」

 村山七段にとってはやや不本意な展開となってしまったようですが、客観的に見ればずっと難しい中盤戦が続きます。

藤井「横歩取りから力戦のようになったんですけど、駒があまり前に出にくい将棋なので、ちょっとどうバランスを取ればいいのか、わからなかったです」

 52手目。村山七段は四方に利く角を自陣に据えます。対して藤井二冠は歩を打って銀取りを受けました。この時点で残り時間は藤井1時間21分。村山2時間20分。かなりのスローペースです。

村山「△5四角を打ったあたりは盛り返したかなと思ったんですけど」

藤井「△5四角に▲3七歩と打ったあたりは少し抑え込まれている感じがして。そこで何か、後手になんとか良くしに来る手があってもおかしくないのかなと思ってました」

 村山七段は1時間17分の長考で7筋の歩を伸ばします。このあたりから少しずつ、藤井二冠が差をつけ始めたようです。

村山「▲3七歩打たれたところでかなり長考したんですけど、自信が持てる展開が見えなかったですね。(中盤は)バランスを取るのにせいいっぱいという感じだったんですけれども。自信を持てるという感じの局面は・・・。(△5四)角打ったときは、この角打ちが攻防で感触がいいかなと思ったんですけど。そっから先はずっと常に歩損がたたる展開で。常に歩切れが痛いという局面が続いたので。ちょっと中盤はあまり自信が持てなかったですね」

 89手目。藤井二冠は銀で相手の角を取ります。

藤井「薄い玉形が続いたので・・・。そうですね、危なかったんですけど。角を取ったあたりでは、なんというか、手厚くなったのかなと思いました」

 93手目。藤井二冠は7筋の歩を村山陣三段目に進めて成ります。その後ろには攻めの主力である飛角銀桂が控えていて、7筋からの突破が受からなくなりました。村山七段は右手で持っていた扇子を畳の上に置き、右手を額にあててうつむきました。村山七段は6時間の持ち時間を使い切って一手60秒未満で指す「一分将棋」。秒読みの声にうながされるようにして、桂でと金(成歩)を取りました。

 藤井二冠は4分を残しています。序中盤で惜しみなく時間を使っても、最後のほんの数分は残しておくのが、藤井二冠のいつものスタイルです。

 97手目。藤井二冠は金を取りながら、7筋の飛車を縦に走らせます。村山陣に受けはなく、一方で藤井玉は安泰です。

「50秒、1、2、3、4、5」

「負けました」

 村山七段が頭を下げ、藤井二冠も一礼を返して、23時24分、対局終了。藤井二冠はマスクをつけ、まくっていたワイシャツの袖を元に戻しました。

 藤井二冠は村山七段との公式戦対戦では、1敗のあと、1勝を返した格好になりました。

村山「今日の将棋はこちらが苦しくなってからかなり手堅く指されて、うまくまとめられてしまったなあ、という感じですね。前回の将棋(昨年の叡王戦七段予選)とは戦型も違うので、だいぶ違った戦いになったんですけど。今日は手堅くまとめられてしまったという感じです」

 藤井二冠はこれで今期B級2組全10局のうち、前半5局を全勝で通過することになりました。

藤井「5連勝といういい形で前半終えることができたので。そうですね、次局以降もまた、これまでと同じように、一局一局、全力を尽くしたいと思います」

 全勝だった中田宏樹八段は戸辺誠七段に敗れたため、全勝は藤井二冠ただ一人。B級1組昇級に向けて、また一つ大きく前進しました。

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将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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