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「さばきのアーティスト」久保九段の中飛車に「鬼軍曹」永瀬王座は地獄突きから乱戦に 王座戦第5局始まる

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月14日9時。山梨県甲府市・常磐ホテルにおいて第68期王座戦五番勝負第5局▲久保利明挑戦者(45歳)-△永瀬拓矢王座(28歳)戦が始まりました。

 五番勝負は両者2勝2敗。本局を勝った方がシリーズを制することになります。

 第5局がおこなわれる常磐ホテルは、タイトル戦の定宿。これまでに多くの名勝負が戦われてきました。

 8時43分頃、対局室にまず永瀬王座が登場。タイトル戦の番勝負では数少ないスーツ派の永瀬王座。今期叡王戦七番勝負では最初に和服で、ほどなくスーツに着替えるという手筋を使っていました。王座戦第1局も同様。2局以降は、最初からスーツ姿でした。

 永瀬王座の今期成績は24勝9敗2持将棋。

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 対局数35、勝数24はいずれもランキング1位です。過密日程の中、数多くの対局をこなし、勝ちまくっているように見える永瀬王座ですが、本局にもし敗れると無冠となるのですから、厳しいものです。

 続いて久保利明九段登場。こちらはいつも通り和服姿でした。

 久保九段の今年度成績は15勝10敗です。

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 王座戦第4局は久保九段の逆転勝ちでした。

 ここまで4局はすべて先手番の勝ちでした。

 改めて第5局は振り駒によって先後が決められます。記録係の熊谷俊紀三段が歩を5枚振ったところ、表の「歩」が2枚、裏の「と」が3枚出ました。

 9時。

「それでは定刻となりましたので、久保九段の先手でお願いします」

 立会人の中村修九段が声をかけて、両対局者は「お願いします」と一礼。ファイナルラウンドの戦いが始まりました。

 久保九段は初手、中央5筋の歩を突きました。続いて3手目、左手をさっと舞わせ、飛車を中央に移動させます。久保九段は第2局に続いての中飛車採用となりました。

「振り飛車党のタイトル戦というのは久しぶりだと思うんですけど、振り飛車でも戦えるというところを証明していければなと思っています」

 挑戦権獲得直後にそう語っていた久保九段。その公約通り、五番勝負は5局ともに戦型は振り飛車となりました。

 久保九段は5筋、そして7筋の歩を中央五段目にまで進めます。形はわずかに違うものの、2019年竜王戦本戦、藤井聡太七段(現二冠)戦で見せた布陣に似ています。

 対する永瀬王座。無難な進行を選ぶとすれば多くの選択肢がありました。しかし14手目。永瀬王座はわずか16分の考慮で、久保九段の5筋の位に向かって、三段目の歩を突き上げていきました。いわゆる「地獄突き」という手法で、相手の勢力が強いところから反発したことになります。

 こう進めば、もう収まりません。永瀬王座は角交換から両成りに筋違い角を打ち、馬を作ります。

 竜王戦七番勝負第1局▲羽生善治九段-△豊島将之竜王戦は序盤から大変な乱戦となりました。本局もまた、序盤から波乱が起きたと言ってよさそうです。

 時刻は11時半を過ぎました。現在は久保九段が23手目を考えているところです。形勢はもちろん難しいものの、実戦的に馬を作っているのが大きく、早くも永瀬王座がリードを奪っている可能性はあります。

 王座戦五番勝負の持ち時間は各5時間(チェスクロック方式)。昼と夕方の休憩をはさんで、通例では夜に終局します。

 何が起こるのかわからない将棋界。持将棋引き分けとなる可能性ももちろん否定はできませんが、おそらくはこれが第68期王座戦最後の一局となります。ファイナルセットで勝利をあげ、五番勝負を制するのは、はたしてどちらでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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