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羽生善治九段の封じ手は27手目▲2七同飛車 豊島将之竜王の趣向から大乱戦の竜王戦第1局、2日目始まる

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月10日。東京都渋谷区・セルリアンタワー能楽堂において第32期竜王戦七番勝負第1局▲羽生善治九段(50歳)-△豊島将之竜王(30歳)戦、2日目の対局が始まりました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 対局がおこなわれる能楽堂は檜(ひのき)でつくられている、文字通りの檜舞台です。本局は現地で観戦されているとともに、インターネットを通じて全世界に公開されています。

 まず8時47分、羽生九段登場。「千両役者」というのは歌舞伎の世界の言葉ですが、まさに千両役者が大舞台に帰ってきたという感があります。

 平成が始まった1989年。26歳の島朗竜王に19歳の羽生善治六段が挑む第2期竜王戦がおこなわれました。第1局の対局場は川崎市民プラザ。2日目午後から終局までという限られた時間ではありましたが、対局は一般観戦者に公開されました。密室での対局が当然だった当時において、これは大変に画期的なことでした。

 19歳の羽生竜王誕生から31年の時が経ちました。元号は令和に変わり、羽生九段は50歳となって、竜王復位を目指しています。

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 8時48分頃、豊島竜王登場。上座につきます。

 豊島竜王は1990年、平成生まれ。1970年生まれの羽生九段とは20の年齢差があります。

 幼き豊島少年が本格的に将棋に打ち込むきっかけとなったのは、1994年の竜王戦七番勝負、佐藤康光竜王-羽生善治名人戦のドキュメンタリー番組を見たからだった。このとき、羽生名人は佐藤竜王にリベンジを果たし、竜王復位。七冠のうちの六冠を占めることになります。そして96年、王将位まで獲得して、奇跡の七冠制覇へと至るのでした。

 平成生まれの将棋好きの少年、少女たちにとっては、羽生九段は輝けるヒーローであり続けました。そうした少年たちが棋士となってからは、常に高い壁でもあり続けました。

 豊島竜王はタイトル戦において、羽生九段に2度挑戦を退けられ、3度目で初タイトルの棋聖位を獲得しました。そして4度目のタイトル戦。豊島竜王は初めて防衛する立場として羽生挑戦者と対峙しています。

 羽生九段、豊島竜王と揃って向き合ったあと、両者は一礼。上位者である豊島竜王が駒箱を手にして、駒袋を取り出し、盤上に駒をあけました。そして豊島竜王が「王将」を手にして所定の位置に据えます。

 立会人は森内俊之九段。本日10月10日、50回目の誕生日を迎えました。羽生九段、藤井猛九段、丸山忠久九段、そして森内九段。竜王戦七番勝負の舞台に立った「黄金世代」1970年生まれの4人の棋士は、これで揃って50歳を迎えたことになります。

 両対局者ともに駒を並べ終えたあと、森内九段が声をかけます。

「それでは1日目の指し手を再現します。よろしくお願いします」

 記録係が棋譜を読み上げ、両対局者はその声に従って、駒を動かしていきます。

「先手、羽生善治九段、▲7六歩。後手、豊島将之竜王、△8四歩。先手、▲6八銀。

・・・」

 1日目、盤上で進んだ手数はわずかでした。その最終26手目、豊島竜王は羽生九段の飛車の頭に歩を打っています。

 そして27手目。森内九段が封じ手を開封し、羽生九段が前日に記した次の手を読み上げます。

「封じ手は2七同じく飛車です」

 大方の予想通り、封じ手は▲2七同飛でした。

 森内九段は2枚の封じ手用紙を両対局者に見せます。小さくうなずいた羽生九段。飛車取りに打たれていた歩を飛車で取ります。

 2日制タイトル戦の封じ手としては、王位戦第4局における藤井聡太挑戦者に続いての「同飛車大学」となります。

 今回の同飛車はもしかして、羽生挑戦者の趣向なのでしょうか。

 9時。

「それでは再開の時間になりましたのでよろしくお願いいたします」

 森内九段が声をかけて、両対局者改めて一礼。2日目の対局が始まりました。

 一息をおいて、豊島竜王は28手目、角サイドの桂を中央五段目に跳ね出します。18手目に中段に跳ね出して銀桂交換の成果を得たのは飛車サイドの桂でした。この早い段階のうちに2枚の桂が次々と跳んでいくというのも、そうあることではありません。

 互いに相手陣に角を成り合って、馬を作り、見方によってはもう終盤と言ってもよさそうな状況となっています。

 35手目。今度は羽生九段が豊島陣の金の頭に歩を打ちます。これは取るか逃げるか悩ましいところです。

 両者の2日目午前のおやつはフルーツの盛り合わせ。豊島竜王にとっては1日目午前、午後に続いての3連投になります

 36手目、豊島竜王は歩を取らずに金を逃げました。ABEMAの勝率表示では豊島59パーセント。筆者手元のコンピュータ将棋ソフト「水匠2」は評価値にして400~500点ほど、後手の豊島竜王よしという判断をしています。

 両者の過去の対戦成績は豊島16勝、羽生17勝。そしてなぜか後手側が7連勝中というデータが示されています。本局も後手番の勝利となるのかどうか。

 竜王戦七番勝負2日目は昼食休憩をはさんだあと、夕食休憩はなく、終局まで指し進められます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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