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レジェンド中井広恵女流六段(51)倉敷藤花戦挑決を制し女流タイトル挑戦史上最年長記録更新

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月1日。東京・将棋会館において第28期大山名人杯倉敷藤花戦・挑戦者決定戦▲石本さくら女流初段(21歳)-△中井広恵女流六段(51歳)戦がおこなわれました。10時に始まった対局は15時21分に終局。結果は136手で中井女流六段の勝ちとなりました。

 中井六段はこれで里見香奈倉敷藤花(28歳)への挑戦権を獲得。三番勝負第1局は11月5日、関西将棋会館でおこなわれます。

 中井六段は2006年度(2007年2月-3月)女流名人戦五番勝負以来、13年半ぶりのタイトル戦登場となります。

 これまでの女流タイトル挑戦・最年長記録は清水市代現女流七段の49歳8か月でした。(2018年、リコー杯女流王座戦五番勝負)

 倉敷藤花戦三番勝負開幕時に51歳4か月となる中井女流六段は、その記録を更新することになります。

レジェンド、手厚く新鋭に勝利

 中井六段は準決勝で野原未蘭2級を降しての挑決進出となりました。

 中井六段は倉敷藤花3期、女流タイトル獲得は通算19期という実績を誇ります。これは清水七段、里見六段(現女流四冠)に次ぐものです。

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 一方の石本初段は香川愛生三段、渡部愛三段、甲斐智美五段といった強豪を破っての勝ち上がり。これまでにタイトル挑戦の経験はなく、また挑決進出も初めてとなります。

 これまでの大きな実績としては2017年、女子将棋YAMADAチャレンジ杯(現YAMADA女流チャレンジ杯)での優勝があげられます。

 現在の女性棋界は里見香奈四冠、西山朋佳三冠の「2強時代」と言われます。

 一方で石本初段や野原2級のような若手も台頭してきており、また一方で清水七段や中井六段のように長年に渡って活躍する「レジェンド」も健在というわけです。

 振り駒の結果、先手は石本初段。初手に飛車を大きくスライドさせ、三間飛車の作戦を取りました。

 一方の中井六段は昔から変わらず居飛車党。本局では持久戦の構えを見せました。

 石本初段が石田流に組み替えようとするのに対し、中井六段は玉形の整備を後回しにし、石本陣にスキありと見て積極的に仕掛けていきます。対して石本初段も積極的に応酬。午前の段階で激しい戦いとなりました。

 中井六段は桂香得という実利をあげる一方で、石本初段は美濃囲いの堅陣をキープしたまま駒をさばく。両者ともに主張のある難解な中盤戦となりました。

 61手目。石本初段は自陣に角を打ち、中井玉に王手をかけます。対して中井六段は手厚く持ち駒の銀を打ちながら王手を防ぎました。そしてもう一枚の銀を中段に打ちつけ、石本初段の主力である龍を端に押し込めます。

 いかにも百戦錬磨という指し回しが続き、形勢は次第に中井六段に傾いていきます。

 大差となってからも、石本初段は勝負をあきらめずに指し続けました。しかし中井六段はまったく誤りません。

 石本初段は最後、あと4手で詰まされるというところまで指して、そこで駒を投じました。

 1981年、11歳で女流棋士となった中井女流六段。83年には史上最年少13歳でタイトル(女流王将)に挑戦しています。

 それから四十年近く経ち、51歳での史上最年長記録達成となりました。また本日の勝利を含め、女流公式戦674勝。史上1位の記録を更新中です。

 中井女流六段と同世代の羽生善治九段は50歳でのタイトル挑戦を決めています。

「鍛えが違う」

 というのはこの世界の常套句です。若手が台頭する中にあって、羽生九段、そして中井女流六段ともに長年つちかった地力があればこそ、五十代になっても活躍し続けられるのでしょう。

 中井女流六段と里見倉敷藤花のタイトル戦は、意外なことに今回が初めてです。注目の三番勝負となることでしょう。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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