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順位戦通算33勝1敗! 名人候補・藤井聡太二冠(18)B級2組で永世名人・谷川浩司九段に堂々の勝利 

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 9月9日。大阪・関西将棋会館においてB級2組4回戦▲谷川浩司九段(58歳)-△藤井聡太二冠(18歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は22時38分に終局。結果は76手で藤井二冠の勝ちとなりました。

 今期B級2組で藤井二冠は4勝0敗。谷川九段は1勝3敗となりました。

 藤井二冠のデビュー以来の順位戦通算成績は33勝1敗(勝率0.971)となりました。依然、順位戦史上最高のハイペースで勝利が続いています。

藤井二冠、連続長考で中盤を制す

 永世名人と名人候補が順位戦で対戦するということで注目された本局。

谷川「こちらが立場的にはぶつかっていく気持ちでした」

 タイトルを複数保持する藤井二冠との対戦について、局後に谷川九段はそう語っていました。

 谷川九段先手で戦型は角換わり腰掛銀に進みました。

谷川「ちょっと悩みましたけれども、一番よく指している戦型でとは思って選びました」

藤井「少し見慣れない形になって、それにどう対応するか、考えてもわからなかったので、そのあたりが課題が残っているのかなと感じました」

 午前の段階では膠着状態が続き、千日手の可能性も生じていました。

谷川「9筋は詰めた(▲9五歩と突き越した)んですけれども、玉を深く囲われて、なかなか打開は難しかったですね。まあちょっと実戦的にはまとめづらい形になったのかなとも思ってましたけれど」

 51手目、谷川九段が盤面中央で銀をぶつけた局面で藤井二冠が考え始めます。

「指されてみるとこちらも対応が難しい」

 と局後に藤井二冠。

 18時、そのまま夕食休憩に入りました。

 18時40分、対局再開。藤井二冠はさらにこんこんと考え続けます。

「プロはわるくなる前に考える」

 とはしばしば言われる言葉です。中でも藤井二冠は中盤で惜しみなく時間を使うスタイルで知られています。

 休憩をはさんで1時間32分。藤井二冠は桂を跳ねて攻めに出ました。

藤井「▲5五銀(左)ぶつけられて△6五桂では少し自信がないのかなと思っていたんですけど」

 持ち時間6時間のうち、残り時間は谷川2時間18分、藤井1時間27分。中盤で両者ともに一手一手時間を使って考え、スローペースの進行です。

谷川「1時間を超える長考を何度もされたので、それがすごく印象に残りました」

 相手の長考中に谷川九段も桂跳ねを読んでいたのでしょう。3分で銀を引き戻して受けます。

 54手目。藤井二冠は7筋の歩をぶつけていきます。対して谷川九段は25分考え、同歩と応じました。

谷川「△7五歩をすごくいいタイミングで突かれたと思ったんですけれども。ちょっとそのあたりの対応がまずかったですかね。自信はないんですけれども、本譜はちょっと大差になってしまったので、もう少しやりようがあったんじゃないかな、と思いますが」

 57手目。谷川九段は4筋から攻めていきます。藤井二冠は堂々と受けて立ちます。このあたりでは、藤井二冠の模様がわずかによくなったようです。

谷川「中盤早々にミスを連発してしまったような感じなので、悔いが残りますね、はい」

 上座の藤井二冠は床の間を背にして座っています。その後ろには「道法自然 十七世名人 谷川浩司」という書が掲げられています。

 藤井二冠の指し手は自然でした。そして自然に形勢をリードしています。

 谷川九段が攻めてきた筋から、藤井二冠は反撃します。その順がまた的確。谷川九段が跳ね出してきた攻めの桂を、藤井二冠は守りの銀で取ることに成功します。形勢は藤井二冠よしではっきりしてきました。

 最後、コンピュータ将棋ソフトは少し形勢が巻き戻るのではないかという順を示していましたが、谷川九段は淡々と指し進めて形を作ります。

 76手目。藤井九段は谷川玉の下から金で王手をします。

「負けました」

 谷川九段は一礼をして投了を告げました。藤井二冠も深く一礼を返し、対局終了となりました。

 藤井二冠はこれで今期B級2組で4連勝。

「残りも全力を尽くして昇級を目指せればと思っています」

 いつもの通り、藤井二冠は謙虚に語っていました。B級1組昇級、さらにはそのあとに続くA級昇級、そして名人挑戦に向けて、藤井二冠はまた一歩、大きく歩みを進めました。

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将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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