Yahoo!ニュース

千日手マスター永瀬拓矢王座、巧みに千日手を回避して昼食はビーフカレーライス 王座戦五番勝負第1局

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 9月2日。神奈川県秦野市鶴巻温泉「元湯 陣屋」において、第68期王座戦五番勝負第1局▲永瀬拓矢王座(27歳)-△久保利明九段(45歳)戦がおこなわれています。

 久保九段は四間飛車から工夫した駒組を見せます。この形は現在「振り飛車ミレニアム」とも呼ばれているようです。

 対して居飛車穴熊に堅く囲った永瀬王座。互いにスキを見せぬよう慎重に陣形整備を進めます。

 そして両者ともに、次第に動かす駒が少なくなってきました。永瀬二冠は飛車、久保九段は飛車と角を動かしてじっと待ち続けます。

 54手目。久保九段が飛車を2筋から4筋に戻したところでは、同一局面3回目となりました。あとも1回同じ局面が生じると、規約により千日手が成立。指し直しとなります。

 一般的な考えとしては、わずかながら勝率のよい先手番をもって、序中盤で千日手にしてしまうのは、作戦失敗と見られます。

 しかし永瀬王座は千日手をいとわない棋士です。

 永瀬王座は公式戦で40回の千日手を経験しています。通算では永瀬王座以上に千日手を指している棋士はいますが、出現比率としては永瀬王座が群を抜いているようです。

 永瀬王座はParaviのインタビューでは次のように語っています。

永瀬「今までちょっと千日手が少なすぎたというのが自分の実感です。公式戦で。何ででしょうね? お互い棋力が拮抗してて、実力が拮抗してれば、引き分けになるのが自然だと思うんですけど(笑)。何ででしょう。自分の理屈はそうなんですけど。渡辺二冠とかは先後の関係を主張するかもしれませんけど、自分からすると棋力が拮抗しているのであれば引き分けという結果は、ひとつ自然な形なのかなと」

 他ならぬ永瀬王座が指しているだけに、午前中から千日手成立か・・・と思われた本局。永瀬王座は微妙に飛車の位置を変えて千日手を避けます。そしてわずかな形の違いを利用して、千日手を打開しながら、巧みに角を左辺から右辺に転換しました。

 65手目。永瀬王座が飛車側の銀を穴熊に引きつけた局面で12時10分、昼食休憩に入りました。

 両対局者ともに昼食は陣屋名物のカレーライスだそうです。

 永瀬王座は昨年はシーフード、今年はビーフですので、こちらも微妙に同一局面は避けたと言えるのかもしれません。

 6日にやはり陣屋でおこなわれる叡王戦第8局では、何を頼むのでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

松本博文の最近の記事