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羽生善治九段(49)終盤で糸谷哲郎八段(31)に逆転を許して敗れA級順位戦黒星先行

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 9月2日。大阪・関西将棋会館においてA級順位戦3回戦▲羽生善治九段(49歳)-△糸谷哲郎八段(31歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は23時28分に終局。結果は140手で糸谷八段の勝ちとなりました。今期A級成績は、糸谷八段は2勝1敗、羽生九段は1勝2敗となりました。

糸谷八段、形勢揺れ動く熱戦を制す

「いやー」

「そっかー」

 本局、両対局者からは何度そのつぶやきが聞かれたでしょうか。

 羽生九段先手で、戦型は横歩取り。午後からは前例と離れた戦いになりました。

 糸谷八段は中段に桂を跳ね出し、飛車を中央5筋に据え、中住居の羽生玉にねらいを定めます。羽生九段は慎重に応対し、おそらくは羽生九段がペースをにぎって夕食休憩に入りました。

 夜戦に入った再開後。形勢は大きく揺れ動く熱戦となりました。

 迎えた終盤戦。糸谷玉は王手に応じながら、中段四段目にまで引っ張り出されます。羽生九段は上手く指し回し、優勢から勝勢を築いたようにも見えました。

 しかし終盤でのたぐいまれな怪力で知られる糸谷八段。中段玉で耐えしのぎながら、次第に流れを引き寄せていきます。

 109手目を指した時点で羽生九段は持ち時間の6時間を使い切り、あとは60秒未満で指す一分将棋となりました。対して糸谷八段は1時間19分を残しています。結果的には、この時間のペース配分が勝敗を分けたのかもしれません。

 羽生九段が2枚の龍(成り飛車)を作っているのに対して、糸谷玉はきわどく逃れ続け、ついに羽生玉に手がつく順が回ってきました。

 糸谷八段は前のめりとなって考えます。盤面を映すモニターには、糸谷陣三段目あたりまで、糸谷八段の頭がおおいかぶさっていました。

 羽生九段が秒を読まれながらの一分将棋なのに対して、1時間以上を残す糸谷八段もまたほとんど時間を使わずに指し進めます。

 129手目。糸谷八段は桂を王手で跳ね出します。自玉の逃げるスペースを作りながらの気持ちのいい攻防手。このあたりで糸谷八段の勝勢がはっきりしました。

 133手目。羽生九段は糸谷玉上部に桂を打ってプレッシャーをかけます。ここで羽生玉には長手数の即詰みが生じていました。

 糸谷八段は1時間10分を残しています。しかし糸谷八段はわずか2分で勝ちを読み切ったか。あとはノータイムで王手をかけ続け、きれいに羽生玉を詰ませました。

 糸谷八段にとっては会心の逆転劇といえるでしょう。一方で羽生九段にとっては、残念な敗戦となりました。

 糸谷八段は2勝1敗で白星先行。羽生九段は1勝2敗で黒星先行。今期A級をあとで振り返ってみた際、両者にとって大きな星となる可能性もありそうです。

 両者の通算対戦成績はこれで羽生11勝、糸谷9勝となりました。

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将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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