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前名人・豊島将之竜王(30)今期A級順位戦で白星スタートを切る ライバル稲葉陽八段(32)に勝利

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 8月31日。大阪・関西将棋会館において第79期A級順位戦1回戦▲稲葉陽八段(32歳)-△豊島将之竜王(30歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は23時50分に終局。結果は146手で豊島竜王の勝ちとなりました。名人戦七番勝負で敗れて名人位を失った豊島竜王。今期A級は幸先よく白星でスタートしました。

 敗れた稲葉八段は1勝1敗となりました。

豊島竜王、手厚く勝利

 戦型は角換わり。先手番の稲葉八段が早繰り銀に出たのに対して、豊島竜王は腰掛銀から銀矢倉にスイッチして、柔らかく受けます。

 稲葉八段の銀が五段目まで進んだタイミングで、豊島竜王は継ぎ歩から十字飛車というこの戦型でよく見られる筋でカウンターを仕掛けました。

 豊島竜王は中段に大駒の飛角を配して押していきます。対して稲葉八段の攻めの銀は五段目から三段目にまで撤退。豊島竜王が巧みにペースをつかんでいきました。

 稲葉八段は豊島陣に角を打って成り込み、馬を作ります。常識的には大きなポイントと思われます。しかし実は、豊島竜王の待ち受けるところだったのかもしれません。

 豊島竜王は自陣の駒を繰り替えて、稲葉八段の馬を追い詰めていきます。そしてついに馬を生け捕ることに成功しました。

 角金交換の駒損となった稲葉八段は、すぐに金を打って逆に豊島陣の角を召し上げます。駒割はイーブンに戻りました。しかしそのやり取りの末に、形勢は豊島優勢ではっきりしてきたようです。

 今度は豊島竜王が稲葉陣に角を打ち込み、馬を作ります。この攻防にはたらく馬が実に手厚い。この馬を軸に豊島竜王が手厚く指し進め、勝勢を築きました。

 苦しい中をずっと耐え続けてきた稲葉八段。最後は豊島陣に飛車を成り込んで龍を作り、形を作りました。そしてじっと中空を見上げます。

 豊島竜王は一度席を立ちました。そして稲葉玉に詰めろをかけます。

 適当な受けがなくなった稲葉八段は、すぐに龍で飛車を取ります。

 豊島竜王はグラスに注いだ水を飲み、マスクをつけたあと、馬を寄って王手をかけます。以下、稲葉玉は比較的簡単な詰みとなります。

「負けました」

 稲葉八段は駒台に手をそえて、投了の意思を示しました。

 名人位を失ったばかりの豊島竜王。名人戦リターンマッチに向けて、幸先のよいスタートを切りました。

 A級1回戦はこれで全局が終了。続く2回戦は▲豊島竜王-△菅井竜也八段戦のみが残されています。

 豊島竜王と稲葉八段の通算対戦成績は、豊島11勝、稲葉8勝となりました。

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将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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