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新名人誕生の瞬間が近づいてきたか? 渡辺明挑戦者(36)正確に指し進め勝勢を築く 名人戦第6局2日目

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 8月15日。大阪・関西将棋会館において第78期名人戦七番勝負第6局▲渡辺明二冠(36歳)-△豊島将之名人(30歳)戦、2日目の対局がおこなわれています。

 90手目。豊島名人は相手の飛車先に歩を打ち、攻めを催促しました。渡辺挑戦者は飛車を切り、銀と刺し違えます。すぐにその銀を豊島玉のそばに打ち、いよいよ寄せに入りました。

 豊島名人はまた10分考え、銀でねらわれている金を横にスライド。あえてと金に当たる位置に逃げます。非常手段と思われる受けです。

 持ち時間9時間のうち、残りは渡辺2時間52分、豊島2時間39分。

 形勢は渡辺挑戦者勝勢となりました。時間も余裕のある挑戦者。ここでまた腰を落として考えます。

 挑戦者が考慮中、かなり長い時間、名人は中空を見上げていました。そしてそのあと、がっくりと肩を落としたように見えました。

 渡辺二冠は39分を使って考え、豊島陣三段目のスキに角を打ち込みます。これが金取り。中盤で「金はななめに誘え」の格言通り、金を上ずらせた効果がここで現れます。

 渡辺挑戦者は青いクーラーバッグの中からみかんジュースを取り出し、瓶のまま飲みました。

 豊島名人はここでまた長考に沈みます。

 ABEMA解説は18世名人資格者の森内俊之九段が務めています。

森内「確かにここしか考えるところがないんですよね。ここで指してしまったら、たぶん、一気に行く可能性もありますので」

 16時36分頃。豊島名人はあたりになっている金を一つ前に進めます。攻防手。1時間10分を使って、残りは1時間29分となりました。

 渡辺挑戦者は2017年度、A級からB級1組に陥落するという大変な逆境に見舞われました。

「客観的に見て、私が名人戦に出ることはもうないでしょう」

 当時の『将棋世界』誌掲載インタビュー記事には、そんな発言も残されています。しかしそこから見事な復活を遂げました。

 渡辺挑戦者は18分で四段目に角を成り返ります。形勢は渡辺挑戦者、勝勢。客観的な情勢だけを見れば、新名人誕生の瞬間が近づきつつあるようです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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