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非勢の豊島将之名人(30)苦しい局面をしのげるか? 名人戦第6局、2日目午後の戦い続く

松本博文将棋ライター
写真撮影:悟訓

 8月15日。大阪・関西将棋会館において第78期名人戦七番勝負第6局▲渡辺明二冠(36歳)-△豊島将之名人(30歳)戦、2日目の対局がおこなわれています。

 優位に立った渡辺挑戦者。84手目、豊島名人が玉を寄った局面を前にして、じっと熟慮に沈みます。

 12時30分。

「休憩時間に入りました」

 記録係の声を聞いて、渡辺挑戦者は立ち上がります。対して豊島名人はすぐに席を立たず、盤の前に一人残って、しばらく盤上を見つめていました。

 昼食は昨日に引き続いて、関西将棋会館1階のレストラン「イレブン」から。渡辺挑戦者の単品メインのみでご飯なしは、しばしば見られる手筋のようです。

 再開前、先に席に座っていたのは渡辺挑戦者。

 13時30分。

「時間になりました」

 記録係がそう告げたときにもまだ、豊島名人の姿はありません。渡辺挑戦者は相手が座っていない盤面に向かって手を伸ばします。

 85手目、挑戦者は5筋に歩を成りました。強く決めに行こうという手です。1時間の休憩をはさんで、消費時間は1時間7分。もう終盤に入ったと言ってもよさそうなところ。詰む、詰まないにまで及ぶ変化まで、渡辺挑戦者は読みに読んだのでしょう。

 渡辺挑戦者が85手目を指した時点で、持ち時間9時間のうち、残りは渡辺2時間57分、豊島3時間44分となりました。

 13時32分頃。豊島名人は御上段の間に戻ってきます。そして盤上にできていると金を見つめました。

 名人は23分を使って、挑戦者の飛車筋を止めました。局面は挑戦者が攻めきるか、それとも名人がしのぎきれるか、という段階に入っています。

 挑戦者はノータイムで飛車を横に動かすモーションで歩を取ります。これでもう飛車は助かりません。名人に飛車を渡すリスクを承知の上で、勝負をつけにいったわけです。

 88手目。名人はきわどいタイミングで渡辺陣の金取りに歩を打ちます。渡辺玉の周囲の駒は、桂1枚は取られたものの、金銀4枚が健在で堅く守っています。まずはひとつ金の連携を崩すことができるか。

 対して渡辺挑戦者は4分で歩を取りました。時刻は14時半を過ぎました。豊島名人はじっと考えています。形勢は依然、挑戦者よしで推移しています。しかしもちろん、名人に望みがないというわけではありません。将棋は最後まで何が起こるのか、まったく想像もできません。名人戦においても、これまで何度も、信じられないような逆転劇が起こってきました。

 名人戦2日目の対局は18時から30分の休憩があり、そのあとは終局まで指し続けられます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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