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鬼軍曹・永瀬拓矢叡王(27)叡王戦第7局完勝で3勝2敗(2持将棋1千日手)とし初防衛まであと1勝

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 8月10日。東京・将棋会館において第5期叡王戦七番勝負第7局▲永瀬拓矢叡王(27歳)-△豊島将之竜王・名人(30歳)戦がおこなわれました。

 持ち時間は各6時間。10時に始まった対局は22時16分に終局。結果は91手で永瀬叡王の勝ちとなりました。

 永瀬叡王はこれで3勝2敗2持将棋として、叡王位防衛まであと1勝と迫りました。

 第8局(持ち時間各6時間)は9月6日、神奈川県秦野市鶴巻温泉「元湯 陣屋」でおこなわれます。第7局と先後は入れ替わり、豊島挑戦者が先手となります。

 永瀬叡王リードで迎えた夜戦。豊島挑戦者は永瀬玉の上部から圧をかけて逆転のチャンスをうかがいます。

 67手目。永瀬叡王は満を持して踏み込みます。永瀬叡王は豊島陣の桂と馬(成角)を取る一方、豊島挑戦者は銀と金を取ります。

 豊島挑戦者にもどこかチャンスが出てきたのではないかと思われたところ。永瀬叡王は自陣に桂を打ちます。相手の龍(成飛車)の横の利きを止めながら、豊島陣に利かせる攻防手。これでやはり永瀬挑戦者リードは変わらないようです。

 豊島挑戦者からはときおり、濃い疲労の色がうかがえます。2日にわたる名人戦の激闘のあと、中1日をおいての本局。そして相手はいずれも強敵。疲れないはずはないでしょう。

 74手目。豊島名人は6筋の金底に歩を打って、粘りの姿勢を見せます。

 対して永瀬叡王は先ほど打った攻防の桂で相手の香を取り、その香をすぐに6筋中段に据えます。これもまた攻防に利く位置です。

 持ち時間6時間のうち、残り時間は永瀬1時間21分。豊島55分。

 非勢の中、豊島挑戦者は考え続けます。そして27分考え、飛車取りに銀を打ちました。あまりはたらきのない場所への投資なので、いかにもつらい一手。しかし最後まで勝負を捨てないという姿勢は崩していません。

 87手目。永瀬叡王は角を打って王手をかけます。金が利いているところですが、金で取られたら豊島玉は詰みます。豊島挑戦者は金を打って合駒としました。

 永瀬叡王はいまうったばかりの角を切って、自陣に迫る相手の桂と刺し違えます。これが永瀬流の負けない将棋。「終盤は駒の損得よりも速度」の格言にもかなった順です。

 91手目。永瀬叡王は相手の底歩に合わせる形で、6筋に歩を打ちます。

 身体を前後にゆすりながら、体力、気力とも十二分の迫力を感じさせる永瀬叡王。対して豊島挑戦者は静かにたたずんでいる感じです。

 静かな対局室に、観戦者にとってはやや突然とも思われる感じで、豊島挑戦者の声が響きました。

「負けました」

 豊島挑戦者は駒台に右手をそえ、深く一礼して投了の意思を告げました。永瀬叡王も一礼を返して、対局終了。永瀬叡王は黒いマスクをつけて、感想戦が始まりました。

 永瀬叡王はこれで3勝2敗2持将棋。タイトル初防衛まで、あと1勝としました。

 豊島竜王・名人は名人戦とともに、叡王戦もカド番に追い込まれました。あまり休む暇もなく、14日・15日には名人戦第6局に臨むことになります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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