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叡王戦七番勝負第7局(最終局にあらず)始まる 振り駒で先手は永瀬拓矢叡王、戦型は相掛かり

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 8月10日。東京・将棋会館において第5期叡王戦七番勝負第7局▲永瀬拓矢叡王(27歳)-△豊島将之竜王・名人(30歳)戦が始まりました。

 今期叡王戦七番勝負は異例の死闘となりました。

 タイトル戦の番勝負で持将棋が出現するというのは大変なレアケースです。

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 ひとつの番勝負で持将棋2回成立というのはもちろん、史上初のこととなります。

 叡王戦七番勝負は、複数の持ち時間の設定で対局がおこなわれるのが特色の一つです

 本局では叡王戦史上はじめて、6時間(チェスクロック使用)の対局が実現しました。

 9時42分頃、豊島将之竜王・名人が入室。下座にすわりました。一昨日、同じ将棋会館・特別対局室では名人戦七番勝負第5局がおこなわれていました。その際には名人保持者として上座に座っています。本局では挑戦者の立場です。兵庫県在住の豊島挑戦者。「アウェイ」の東京で、中1日をおいての連戦となります。

 9時43分頃、永瀬叡王入室。床の間を背にし、脇にバナナ9本が置かれている上座に着きました。

 マスクの色は、永瀬叡王は黒、豊島名人は白。コロナ禍の対局のなか、対局者にはマスク着用が推奨されています。ただしそれは義務ではなく、途中ではずすことも可能です。

 いつもなら両対局者が席に着いたあとは、駒を並べ始めるところ。しかし本局は違います。

「では第5期叡王戦第7局にあたりまして、改めて振り駒をさせていただきます」

 立会人の中村修九段がそう告げました。まずは駒を並べる前に、振り駒がおこなわれます。記録係の鈴木麗音二段が畳の上に白布を広げ、駒箱の中から取り出した5枚の歩を投げました。

「歩が3枚出ましたので永瀬先生の先手番でお願いします」

 第7局は永瀬叡王、第8局は豊島挑戦者が先手と決まりました。もし次に振り駒があるとすれば、第8局が終わってもなお「七番勝負」の決着がついてない時です。

 鈴木二段は5枚の歩を拾い、駒箱に戻して、盤上に駒箱を置きました。永瀬叡王が駒箱を手にして盤上に駒をあけ、そこから駒が並べ始められます。

「それでは定刻になりましたので、永瀬叡王の先手番でお願いします」

 中村九段が対局開始の合図をして、両対局者「お願いします」と一礼。対局が開始されました。

 永瀬二冠は右手で飛車に飛車に少しふれたあと、その上の歩をつまんで、一つ前に進めました。対して豊島挑戦者もまた、飛車先の歩を突きます。

 進んで戦型は相掛かりとなりました。永瀬叡王先手の第5局と同じ戦型です。第5局、永瀬叡王は比較的早めに玉を上がりました。本局ではオーソドックスに、先に飛車側の銀を上がります。そして両端の歩を突きました。

 11手目が指されたところで、ぴたりと豊島挑戦者の手が止まります。考えることちょうど30分。飛車先の歩を突いて交換に出ました。現代の相掛かりはどのタイミングでそれを実行するのかが、重要なポイントです。そして飛車を元の位置に戻す「引き飛車」にするのか、それとも四段目の「浮き飛車」にするのか。豊島挑戦者は浮き飛車を選びました。

 19手目。永瀬叡王も飛車先の歩を交換していきます。そして豊島挑戦者と同様に四段目に構えます。そこでまた豊島挑戦者は考慮に沈みました。

 24手目。豊島挑戦者は42分で自陣四段目に角を出ました。これは飛車取りです。対して永瀬叡王は飛車をどこに逃げるか。複数の選択肢があります。

 25手目。永瀬叡王はわずか5分の考慮で遠く8筋に飛車を転回。相手の飛車にぶつけていきました。いちばん強気な手です。

 26手目。豊島挑戦者は29分考えたあと、飛車交換に応じました。両者の駒台に飛車が乗り、序盤から波乱含みの展開です。

 12時を過ぎたところでは28手目、豊島挑戦者が7筋の歩を突いたところまで進みました。

 将棋会館でおこなわれる通常の対局では、昼食休憩は12時から12時40分まで。本局は12時30分から13時30分までです。

 本日はC級2組順位戦・梶浦宏孝六段-佐藤慎一五段戦がおこなわれています。

 梶浦六段は竜王戦本戦を勝ち上がってるため、順位戦の日程が変更されました。

 豊島竜王への挑戦権を目指す竜王戦本戦はベスト4が出揃っています。こちらで挑戦者の名乗りを挙げるのは誰でしょうか。

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将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『あなたに指さる将棋の言葉』(セブン&アイ出版)など。

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