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豊島将之名人(30)が68手目を封じて1日目終了 相矢倉の難解な中盤続く名人戦七番勝負第4局

松本博文将棋ライター
奥野一香師作「名人駒」(記事中の写真撮影、画像作成:筆者)

 7月27日。東京都文京区・ホテル椿山荘東京において第78期名人戦七番勝負第4局▲渡辺明二冠(36歳)-△豊島将之名人(30歳)戦、1日目の対局がおこなわれました。

 渡辺挑戦者の先手で、戦型は矢倉脇システム。昭和の昔からある戦型ながら、最近ではリバイバルで、トップクラス同士の対局でも現れるようになりました。たとえば7月19日におこなわれた叡王戦七番勝負第3局▲永瀬拓矢叡王-△豊島将之名人戦もこの戦型でした。

 本局では渡辺挑戦者が先後同型にせず、盤上右端の歩を突き越したのが工夫でした。

 豊島名人が角を交換してきたのに対して、渡辺挑戦者は豊島陣に角を打ち込みます。そして角を金と刺し違えました。この戦型における攻め筋のバリエーションの一つです。

 早くも中盤の戦いが始まり、12時30分に昼食休憩に入る前には52手目まで進んでいます。2日制で持ち時間9時間の名人戦では、比較的早い進行かもしれません。

 渡辺挑戦者は角金交換の駒損の代償に、攻めの銀を交換してさばきます。

 60手目。豊島名人は交換した銀を自陣に打って補強する手も考えられるところ、12分の消費で渡辺陣に角を打ち込みました。これは強気な一手です。渡辺挑戦者から銀を捨てて飛車を成り込む強襲が見えているからです。それで攻めが決まっていそうにも見えます。

 渡辺挑戦者はここで選択を迫られます。踏み込むか、それともどうするか。

 外の庭園からは蝉の鳴き声が聞こえてきます。いかにも夏らしい風情。例年であれば椿山荘での名人戦は4月前半、桜の季節におこなわれます。

 椿山荘では初夏にホタルが見られます。村上春樹の小説『ノルウェイの森』(あるいは短編『蛍』)では、作中に椿山荘の蛍が登場します。

 61手目。55分を使った渡辺挑戦者は自陣に金を打ちました。銀を捨てての相手陣への踏み込みではなく、自陣に打ち込まれた豊島名人の角を取ってしまおうという手です。

 今度は豊島名人が考えます。そして1時間50分。角の利きに銀を打って、飛車取りとしました。力のこもった応酬です。

 渡辺挑戦者が飛車を逃げたのに対して、豊島名人は角と金を刺し違えます。これで駒割はほぼイーブン。難しい中盤戦が続いていきます。

 17時40分頃。渡辺挑戦者は手にした角を再度豊島陣に打ち込みました。

 ここもまた難しい局面。豊島名人は白いマスクをはずして考えます。

 18時30分。立会人の中村修九段が声をかけます。

「それでは定刻となりましたので、次の一手を封じてもらいます」

 豊島名人はすぐにその声に応じました。

「封じます」

 豊島名人は68手目を封じることになりました。名人は別室で封じ手を記入。対局室に戻ってきたあと、挑戦者が封筒にサインをします。豊島名人が中村九段に封じ手を預け、1日目の日程が終了しました。

画像

 筆者手元のコンピュータ将棋ソフト(水匠2)の判定では、形勢はほぼ互角。歩を取り込む手を最善と判断しています。

 明日2日目は朝9時、封じ手を開封して再開されます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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