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連珠で覚醒した藤田麻衣子さん(将棋元女流棋士)女性として史上初の連珠名人戦A級リーグ入り達成!

松本博文将棋ライター
撮影:@CheckTrance_Renju

 7月18日・19日。連珠の第58期名人戦東日本地区二次予選がおこなわれました。そこで藤田麻衣子さん(46歳、連珠三段、将棋元女流棋士)は二次予選を2位で通過。最高峰の名人戦A級リーグ入りを果たしました。女性がA級に入るのは連珠史上初の快挙です。

 また19日におこなわれた関西北陸地区二次予選では牧野光則さん(32歳、連珠初段、将棋五段)も2位で通過。A級入りを果たしています。

藤田さん、連珠史上初の快挙達成

 いま、連珠が熱い・・・!

 将棋界も激熱ですが、連珠界もまた大変に盛り上がっています。

 連珠は「五目並べ」の正式競技です。簡素なルールながら大変に奥が深く、長い歴史を持ち、多くの愛好者がいます。

 世界各国では「RENJU」として親しまれ、世界選手権や名人戦も行われています。

 現在、日本の連珠界のトップに立つのは名人位29期を誇り、「レジェンド」とも称される中村茂名人です。

 その中村名人への挑戦権を争うのがA級リーグです。A級は10人のトップクラスによる総当たり戦。この仕組みはちょうど、将棋のA級順位戦と同じです。

 連珠上位層のレベルは厚く、A級には初参加者がいない年もしばしばありました。

 藤田さんは連珠に本格的に取り組んで3年ほど。牧野さんは1年半です。

 両者は昨年、初めて名人戦の予選に臨みました。その時はともに一次予選敗退でした。

 しかし両者ともに力をつけ、今年は揃って一次予選を突破。A級出場者を決める二次予選に臨みました。

 藤田さんは東日本地区の二次予選に出場。6人中の上位2人がA級入りとなります。

 藤田さんは初日に強豪を相手に2勝1敗と好スタートを切ります。

撮影:@CheckTrance_Renju
撮影:@CheckTrance_Renju

 2日目の第4局では最終盤で大きく形勢が動く乱戦を、からくもものにしました。

 藤田さんは最終局を引き分けでもよい状況でした。しかし敗れたため、1勝差で追う小野孝之七段に追いつかれ、プレーオフとなりました。小野七段は2009年の世界選手権で12名の決勝リーグに残った実績がある強豪です。

 プレーオフは息詰まる攻防が続きました。小野七段は必死に攻めを繋いでいきます。しかし最後は藤田さんが振り切って、見事に勝利。A級進出を決めました。藤田さんはこれで連珠界初の女性A級棋士となりました。

 一方、牧野さんは関西北陸地区の二次予選に出場していました。

 牧野さんと藤田さんは、2年連続で「ペア連珠大会」にペアを組んで出場している仲良しであり、また同時期に強くなったライバルです。

大会運営者撮影
大会運営者撮影

 関西北陸地区は4名中2名がA級に進出します。

 牧野さんは初戦に敗れて苦しいスタートとなりました。しかし第2局で第八世名人資格者の長谷川一人九段を相手に大きな勝利。最終的には2勝1敗の2位で、見事A級進出を決めました。

 名人6期の実績を持つ長谷川九段は、A級初出場から36期連続でA級以上に在位していた強豪でした。この記録が途絶えたという意味でも、連珠界にとっては歴史的な一日となったようです。

 連珠界では近年、インターネットを駆使して短期間で力をつける棋士も増えています。それでも連珠歴の3年の藤田さん、1年半の牧野さんがA級に進出したのは異例だそうです。

「将棋棋士の思考力の高さが示されたのではないか」(関係者)

 とのことでした。

 藤田さんは次のように語っています。

藤田「女性初のA級棋士となり、連珠の名を少しでも世間の方に広めることは兼ねてからの目標だったので、とても嬉しいです。しかしそれ以上に、これまで切磋琢磨してきた牧野さんとどうしても同じリーグに入りたく、その願いが叶ってホッとしました。思い返せば将棋の公式戦では負け続きで、このように残り1枠を争う競争は経験がなく、1日目終了の夜は緊張で一睡も出来ませんでした。このように必死になれたのもライバル牧野さんが居たからで、感謝してます」

 藤田さんは1973年生まれ。愛知県出身で、なんと偶然にも、今をときめく藤井聡太棋聖と同じ幼稚園出身でもあります。

愛知県瀬戸市、ふみもと子供将棋教室を訪れた際の藤田さん(撮影筆者)
愛知県瀬戸市、ふみもと子供将棋教室を訪れた際の藤田さん(撮影筆者)

 藤井棋聖はちょうどこの日(7月19日)、18歳の誕生日を迎えたばかりでした。早熟の藤井棋聖とは対照的に、藤田さんが本格的に将棋を始めたのは大学(東京工業大学)在学中で、将棋界では異例の晩学組となります。

 藤田さんは「どうぶつしょうぎ」のデザイナーとしても有名です。また女流棋士をやめたあと、2016年からは東京・深川でボードゲームカフェ「いっぷく」を経営しています。

 藤田さんは将棋界ではちょうど木村一基王位(47歳)らと同学年です。本稿の筆者もまた、同学年です。木村王位の史上最年長でのタイトル初獲得がわがことのように嬉しかったのと同様に、藤田さんが多分野で活躍しているのを誇らしく思います。

 連珠名人戦A級リーグは9月19日から21日まで、静岡県焼津市で行われる予定です。持ち時間各100分の対局を3日間で9局こなすという過酷なリーグ戦で、A級初参加の藤田さんと牧野さんがどのような戦いを見せるのか。歴戦の強豪たちがどのように迎え撃つのか。大変に注目されるところです。

(本稿の執筆にあたっては公益社団法人・日本連珠社で広報を担当されている岡部寛九段に多くを教えていただきました。ありがとうございました)

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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