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佐藤康光九段(50)攻め込んできた鬼軍曹・永瀬拓矢二冠(27)を丸太でぶちのめ返し竜王戦本戦進出決定

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 6月25日。東京・将棋会館において第33期竜王戦1組出場者決定戦(4位決定戦)▲永瀬拓矢二冠(27歳)-△佐藤康光九段(50歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は22時43分に終局。結果は148手で佐藤九段の勝ちとなりました。

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 佐藤九段はこれで1組4位。通算18回目の決勝トーナメント(本戦)進出を決めました。

レジェンド健在の勝ち上がり

 この日将棋会館では名人戦第3局▲豊島将之名人-△渡辺明三冠戦、1日目の対局がおこなわれていました。

 また本局の隣ではB級2組1回戦▲佐々木勇気七段-△藤井聡太七段戦が並んで指されていました。

 永瀬二冠は2009年10月、17歳の時に四段デビュー。2011年NHK杯で大豪の佐藤康光九段と対戦し、勝利。これを機に広く名を知られることになりました。

永瀬:将棋を始めたのは、ちょうど9歳になった時です。誕生日に祖父から将棋盤と駒を買ってもらいました。

──お祖父様は今は……。

永瀬:亡くなってます。NHK杯の佐藤康光九段戦の後で亡くなりました。

──そうでしたか。2011年のNHK杯、佐藤康光九段戦は、2回千日手になった後に永瀬さんが勝って。「千日手の永瀬」としてインパクトのあった対局ですね。お祖父様は永瀬さんが棋士になって、ずいぶんと喜ばれたのではないですか?

永瀬:そうですね、喜んだと思います。

出典:永瀬叡王就位記念インタビュー

 本局までの対戦成績は佐藤3勝、永瀬3勝、そして3千日手でまったくの五分です。

 振り駒の結果、先手は永瀬二冠。戦型は角換わり腰掛銀となりました。

 永瀬二冠は現代調で、桂を素早く跳ねて動きます。

 対して佐藤九段は自陣に角を打ち据えて迎撃態勢を作り、永瀬二冠の桂を銀で取って、すぐに桂を打って反撃に出ます。

 永瀬二冠が盤上右辺から攻め込んでいくのに応じ、佐藤九段は玉を左辺(佐藤陣側から見れば右辺)に転じます。この逃げ越した玉が強靭な生命力を発揮しました。

 勝敗不明の終盤戦。永瀬二冠からの迫力ある攻めを、佐藤九段は強くしのぎつづけます。

 近年、佐藤九段の豪腕ぶりは、ファンの間では「丸太」と表現されるようになりました。

 本局は先に永瀬軍曹が攻め込んできた格好ですが、佐藤九段のしのぎもまた、豪腕ぶりが発揮されます。

 佐藤玉は左端まで追い込まれ、あともう一押しがあればそこまで、というところで耐え続けました。

 一手の余裕を得た佐藤九段は永瀬玉を寄せにいき、最後はきれいな即詰みに討ち取って、終局となりました。

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 佐藤九段は1990年の第3期、20歳で4組に優勝。初めて本戦進出を決めています。

 1993年、羽生善治竜王に挑戦して4勝2敗で竜王位を獲得。翌年、リターンマッチに敗れてタイトルを明け渡したものの、竜王位1期、七番勝負登場5回の実績を残しました。

 そして50歳となった現在、通算18回目の本戦進出。

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 1組は1位から5位まで、すべて四十代以上です。トーナメント左側の山に羽生九段(49歳)、佐藤九段(50歳)の名が並んでみると、レジェンド健在という感があります。

「もしかしたら挑戦者決定戦では、史上最年長竜王と、史上最年少竜王の可能性がある棋士同士が対戦?」

 そんなことを考えるファンの方もおられるでしょう。一方、

「棋聖戦、王位戦に続いて竜王戦でも永瀬二冠-藤井聡太七段の挑決が実現するのでは?」

 と考えておられた方も多いと思います。残念なから永瀬二冠の今期竜王戦は、ここで終了となりました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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