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西山朋佳女流三冠(24)女性初の竜王戦5組昇級ならず 激闘187手の末に6組準決勝で敗退

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 6月11日。大阪・関西将棋会館において第33期竜王戦6組ランキング戦準決勝▲星野良生四段(31歳)-△西山朋佳女流三冠(24歳)戦がおこなわれました。

 持ち時間は各5時間。10時に始まった対局は23時10分に終局。結果は187手で星野四段の勝ちとなりました。

 星野四段はこれで6組決勝に進出。2位以内が確定して、5組昇級を決めました。決勝では本戦進出をかけて、高野智史五段と対戦します。

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 また星野四段は公式戦通算98勝目を記録。規定によりあと2勝で五段昇段となります。

 一方の西山女流三冠は女流タイトルホルダーの立場で本棋戦に参加。ここまで快進撃を続けましたが、準決勝で敗退となりました。昇級者決定戦の参加資格はなく、今期竜王戦はここで終了となります。女性初の5組昇級は、惜しくも達成できませんでした。

西山女流三冠、猛烈な追い込みも届かず

 振り駒の結果、先手は星野四段。後手番の西山女流三冠は三間飛車の作戦を取りました。そしてオーソドックスに美濃囲いに組みます。

 居飛車の星野四段は穴熊を目指します。対して西山女流三冠は手早く攻めの銀を繰り出し、単騎で星野陣本営の上部にまで進めます。

 星野四段はうまく穴熊の堅陣を組み上げました。振り飛車に対して穴熊はやはり有力な対策で、序盤では星野四段が作戦勝ちを収めたようです。

 星野四段は自陣の銀を西山女流三冠の銀にぶつけて、交換を迫ります。穴熊は堅く、互角のさばき合いは振り飛車側にとっては不利となる局面でした。

 西山女流三冠はじっと銀を引き上げて辛抱します。星野四段の穴熊が金銀4枚でますます堅くなってつらいところですが、こうしたところでは粘り強く指し、短気に陥らず、じっとチャンスを待つのが得策のようです。

 星野四段が満を持して動き、局面は大きく展開しました。互いに角を取り合った後、星野四段は桂得を果たします。玉形の差と駒割の差を考えれば、星野四段がリードを奪っていることには間違いなさそうです。

 夕食休憩が終わって再開後、西山女王は飛車を成り込み、穴熊玉の急所である端に手をつけます。

 対して星野四段の指し手は終始着実でした。西山女流三冠からの攻めを丁寧に受け続け、つけいるスキを与えません。

 西山女流三冠は馬(成り角)を切り猛攻に出ます。そしてその猛攻もついに途切れる時が来ました。

 満を持して星野四段は西山玉の寄せに転じます。ほどなく押し切って星野四段勝ち――。そう思われたところから、西山女流三冠は金を打ちつけて、まずは詰めろをしのぎます。

 大きな駒得をしている星野四段。あわてず着実に勝つ順を選びます。再び一手の余裕を得た西山女流三冠は、そこから猛然と追い込んでいきます。

 金銀4枚の穴熊に収まっていた星野玉の周りからは、ついにそれらが全部消えました。西山女流三冠は飛車の横利きをいかし、少ない戦力で手をつなげようと手段を尽くします。おそろしいほどの終盤の馬力を発揮して、一時はついにあやしくなったのではないかとも思われました。

 しかし星野四段は終始冷静でした。最後まで丁寧な指し手を続け、終わってみれば187手という熱戦を制しました。

 西山女流三冠の今期竜王戦でのチャレンジは、ここで終わりとなりました。惜しくも女性初の5組昇級はなりませんでした。しかしここまでの大健闘は素晴らしいものでした。

 西山女流三冠は6月20日、今度は奨励会三段の立場として、今期三段リーグの開幕戦に臨むことになります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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