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棋聖戦準決勝の大一番始まる 先手番を得た藤井聡太七段(17)の作戦は得意の角換わり腰掛銀

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 6月2日10時。東京・将棋会館において第91期ヒューリック杯棋聖戦決勝トーナメント(本戦)準決勝▲藤井聡太七段-△佐藤天彦九段(32歳)戦が始まりました。

 対局室は東京・将棋会館4階、棋峰の間。ふすまをしていないと高雄、棋峰、雲鶴の3部屋は一続きで36畳の空間となり、一般的に「大広間」と呼ばれます。

 愛知県瀬戸市在住の藤井七段は東京に遠征となります。

 隣りの高雄の間では同じく棋聖戦準決勝の▲永瀬拓矢二冠-△山崎隆之八段戦がおこなわれています。両対局の勝者がそれぞれ、2日後におこなわれる挑戦者決定戦に進出します。

 9時42分。まずは藤井七段が入室。下座に座り、瞑目して待ちます。

 藤井七段は4月10日、王位戦リーグ白組、菅井竜也八段戦以来の対局となります。

 藤井七段の今年度成績は2勝0敗。前年度末からずっと勝ち続けていて、7連勝中でもあります。

 昨日、将棋連盟のデジタルショップでは、藤井七段揮毫の新しい扇子が売り出されていました。

 揮毫されている字は「進」。藤井七段の師匠の杉本昌隆八段の師匠、つまり藤井七段から見て「大師匠」にあたる板谷進九段(1940-88)の名にもちなんでいるのでしょうか。扇子の方は藤井七段の人気を反映してか、早々に売り切れたようです。

 9時53分。続いて佐藤天彦九段も入室。藤井七段と同じく、白いマスクをしています。

「お茶結構です。グラスいただいてもいいですか?」

 佐藤九段は記録係の中村真梨花女流三段にそう告げました。

 佐藤九段は今年度1勝1敗。棋聖戦2回戦で郷田真隆九段に勝ち、王座戦1回戦では行方尚史九段に敗れています。

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 佐藤九段、藤井七段は大橋流で交互に並べました。中村女流三段が佐藤九段の側の歩を5枚取り、振り駒をおこないます。よく振って畳の上にまいた結果、表の「歩」が2枚、裏の「と」が3枚出て、先手は藤井七段と決まりました。

「それでは定刻になりましたので、藤井七段の先手番でお願いいたします」

 中村女流三段がそう告げて、両者「お願いします」と一礼。対局が始まりました。

 藤井七段はまず右手で茶碗を手にし、左手でマスクを少しずらして、いつも通り、最初にお茶を一服します。そして初手は飛車先の歩を伸ばしました。隣りで対局する永瀬二冠も同じ初手でした。

 佐藤九段はグラスに注がれた水を飲みます。ネクタイを整え、しばし瞑目。2手目、佐藤九段もまた飛車先の歩を前に進めました。

 藤井七段は得意の角換わりの作戦で臨みます。

 37手目。藤井七段は中央、歩越しに銀を進めます。現代の将棋界のメインストリームである、角換わり腰掛銀の進行となりました。

 11時を過ぎたところで、佐藤九段は桂を跳ねて動きました。

 持ち時間は各4時間。昼食休憩をはさみ、夕食休憩はありません。通例では夜に終局となります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『あなたに指さる将棋の言葉』(セブン&アイ出版)など。

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