実力者・飯島栄治七段(40)大熱戦の末に王者・羽生善治九段(49)を降す 王座戦本戦1回戦

(記事中の画像作成:筆者)

 5月21日。東京・将棋会館において第68期王座戦挑戦者決定トーナメント(本戦)1回戦▲羽生善治九段(49歳)-△飯島栄治七段(40歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は21時48分に終局。結果は126手で飯島七段の勝ちとなりました。

 飯島七段はこれでベスト8に進出。2回戦で久保利明九段-松尾歩八段戦の勝者と対戦します。

 王座通算24期の羽生九段。今期は王座復位の道が絶たれました。

飯島七段の名局

 羽生九段の先手で戦型は横歩取り青野流。作戦家の飯島七段が待機策を取って間合いをはかった後、中盤はこの戦型特有の激しい展開になりました。

 飯島七段は羽生陣の駒を取りながら角を成り込んで馬を作り、その馬を最後は切り捨てて羽生陣の一角を突破します。

 一方で羽生九段は飯島玉を中段四段目までにつりあげて、寄せの形を作ろうとします。

 飯島七段が自陣に金を打ちつける頑強な受けを指したところで、夕食休憩に入りました。

 40分の休憩が終わって再開した後も、羽生九段は考え続けます。そして1時間3分を使って決断。飛車を切り、打たれた金と刺し違えました。

 羽生九段は飯島陣に角を打ち込みます。コンピュータ将棋ソフトが示す形勢は飯島七段がはっきりよし。このあたりから、飯島七段のぼやきが増え始めます。

「いやあ」「そうか」「ひえー」

 優勢を意識してか、飯島七段はそんな言葉をつぶやきながら、終盤の難しい局面を考え続けます。

 飯島七段は47分考えて、自玉の下に歩を打ちました。これが詰めろを受けるしっかりした手でした。

 苦しくなった羽生九段は飯島七段の飛車の前に桂を打ちます。羽生九段の残りは4分。時間も切迫する中での渾身の勝負手でした。

 羽生九段が打った桂はタダです。取るか取らないか。取らずに金を上がって受ける手が安全で、そうすれば飯島七段がはっきり勝勢かとも思われました。

 飯島七段は残り39分のうち14分を使って着手。堂々と差し出された桂を取りました。こちらは相手に飛車を渡す、ギリギリを見切ろうという強い勝ち方です。

「強すぎますね」

 解説の広瀬章人八段と佐々木大地五段が声を揃えました。

「羽生先生、これより一分将棋でお願いします」

 記録係の瀬川晶司六段がそう告げました。羽生九段は秒を読まれながら、89手目、桂を打って攻め続けます。

 飯島七段は残り14分。そして3分を割いて歩を打ち、羽生玉に王手をかけました。飯島七段はマスクを耳からかけたまま、無意識なのか、いつしか口元を出しています。

 飯島七段は羽生玉を下から追い、中段に追い上げます。自玉にかかっている頓死筋に注意を払いながら、着実に勝ちに近づいていきます。

 飯島玉に近づき、すれちがうような格好で、羽生玉は飯島陣に入り込む「入玉」を果たしました。しかしその間に攻防に利いている攻防の馬を抜けて、形勢ははっきり飯島七段勝勢です。

 羽生玉はついに飯島玉の一段目にまで到達しました。

「トライルールなら羽生九段勝ちですね」

 と佐々木五段。相手陣の初期の玉位置まで自玉が入れば「トライ」として勝ちになるルールです。しかしプロの公式戦ではそのルールは採用されていません。

 勝ちになったはずの飯島七段はずっとぼやき続けます。劣勢であっても、羽生九段はなかなか相手を楽にさせません。

 飯島七段も持ち時間を使い切り、114手目からは双方60秒未満で指す一分将棋になりました。

 羽生九段は手段を尽くして粘り続けます。

「いやあ、将棋はカオスなんですね」

 と佐々木五段。令和の将棋界はカオスになるという、羽生九段の言葉を踏まえたものでしょう。

 ぼやき続けながらも、飯島七段の足取りはしっかりしていました。最後は龍馬角金銀の重包囲網で、自陣一段目の羽生玉を寄せきりました。

 安定した実力者である飯島七段は、前期B級2組順位戦では不運な降級を経験しました。

 飯島七段は2007年に羽生現九段に勝ったことを大きな誇りとしていました。順位戦降級から立ち直っての本局の勝利は、飯島七段の棋歴を飾るものとなるでしょう。