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NHK杯将棋トーナメント1回戦進行中 千田翔太七段(26)が難解な中盤を制し阿部隆八段(52)に勝利

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 2020年度のNHK杯も開幕し、現在は1回戦が進行しています。

 注目の藤井聡太七段は塚田泰明九段と対戦します。勝者は2回戦で木村一基王位と当たります。

 また「出場女流棋士決定戦」を制して本戦出場を決めた西山朋佳女流三冠(奨励会三段)は佐々木慎六段と対戦します。

 4月19日。Bブロックの▲千田翔太七段(26歳)-△阿部隆八段(52歳)戦が放映されました。

 両者は居飛車党同士です。しかし序盤の駆け引きの後、阿部八段は向かい飛車に振りました。

 阿部八段は居玉のまま手早く桂を跳ね、千田七段玉を深く堅く囲う姿勢をけん制します。

 千田七段はあえて桂を跳ねさせ、銀桂交換の駒損を甘受します。解説の斎藤慎太郎八段も驚く、あまり見ない趣向でした。

 駒の損得では阿部八段、玉形では千田七段に分があり、全体としてはバランスが取れています。

 難しい中盤戦。持ち駒を使っての直接手が見えるところで、千田七段はじっと盤上の歩を突き上げていきます。これがプロらしい本筋の手のようです。

 NHK杯はわずかな持ち時間が使い切るとすぐに一手30秒以内で指さなければならない「早指し」の棋戦です。

 手の広い中盤戦。

「ここもう少し何とかしたいよなあ」

 と局後に阿部八段はぼやいていました。普段の対局であれば時間を使って考えたくなるようなも、NHK杯ではすぐの決断が求められます。

 千田七段は5筋の歩を前に伸ばし、さらには突き捨てました。これが「筋中(すじちゅう)の筋」(斎藤八段)という一手。5筋の歩が切れた後、居玉の阿部玉への王手がヒットしました。

 阿部陣にスキができたのを見て、千田七段は飛車を切ってたたみかけます。最後は千田玉が安泰で、阿部陣が受けても一手一手となったところで、阿部八段が投了しました。総手数は89手で、千田七段の勝ちとなりました。

「自信はなかったです」

 終局後、千田七段はそう語っていました。

 千田七段は2015年度のNHK杯では準優勝の戦績を収めています。

 昨年度は朝日杯優勝を果たしているのは記憶に新しいところです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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