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藤井聡太七段(17)王座戦二次予選で阿部隆八段(52)に勝利 年間勝率8割復帰まであと1勝

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 3月16日。大阪・関西将棋会館において王座戦二次予選▲阿部隆八段(52歳)-△藤井聡太七段(17歳)戦がおこなわれました。10時に始まった対局は20時54分に終局。結果は100手で藤井七段の勝ちとなりました。

 藤井七段はあと1勝で挑戦者決定トーナメント(ベスト16)に進出。二次予選決勝では谷川浩司九段-大橋貴洸六段戦の勝者と対戦します。

 藤井七段の今年度成績は47勝12敗(勝率0.797)。あと1勝で8割復帰となります。

藤井七段、渋い中盤、華麗な最終盤

 振り駒の結果、先手は阿部八段。戦型は矢倉模様となりました。阿部八段は序盤から盤面中央で積極的に動きます。

阿部「一番はじめの仕掛け自体がちょっと問題かもしれませんね。ただ、平凡に指すのでは、全部向こうの言い分が通ってるので、つまんないと思ったんですよね」

 藤井七段も阿部八段の動きに応じて角頭から反撃。三十数手で戦いが始まりました。

 藤井七段が攻め駒の角と相手の守りの要の金を交換し、阿部玉真上の横歩を取って、駒割は角と金歩歩の交換となりました。

 昼食休憩後、数手進んで、阿部八段は▲5七銀と、盤上の銀をじっと活用してバランスを保ちます。これが検討陣も感心した、さすがの一手でした。

藤井「(角金交換は)部分的にはある筋かなと思ったんですけど、ただ・・・最後、▲5七銀と上がられた局面で少し、手段が見えなかったので、ちょっと失敗してなかったのかなという気がしました」

 午後の戦いは両者の長考合戦。局面はゆっくりと進行します。

藤井「バランスを取るのが難しい将棋で・・・。途中は少し自信のない展開になってしまったのかな、と思います」

 手が広い局面で、藤井七段は中段の飛をじっと2手かけて初期位置に戻します。藤井七段といえば、終盤の華麗な決め方がよく知られています。ただし一局の中では、落ち着いた渋い指し回しを見せることも多く見られます。

 阿部八段も桂を跳ね出して反撃します。藤井七段はじっと5筋に歩を突き出し、18時、夕食休憩に入ります。形勢は難しいながら、やや藤井七段に分がある中盤戦と見られました。

阿部「夕休のとこはちょっと、苦しいと思ってたんですけど」

 終盤戦。藤井七段が上部から圧力をかけて阿部玉に迫ったのに対して、阿部八段は角をひらりと転じます。

阿部「ちょっと面白くなったのかな、と思ったんですが、具体的にどうするのかわからなかったですね。角を出たところはちょっと難しくなったと思ったんですけどね。どうやって決められるのかな、という感じだったんですけれど」

 藤井七段が中段に銀を打ちつけ、阿部玉の上部に重しを乗せました。

阿部「もたれられて、わからなかったですね」

 どう対応するか、これが難しい。阿部八段は持ち駒の桂を、攻めにも受けにも使いたいところです。実戦では、阿部八段は受けに桂を使いました。その手を境に、形勢は藤井七段に傾いたようです。

 観戦者には難しそうに見える局面で、藤井七段は銀を捨てる鮮やかな寄せ手順を見せました。これがさすが藤井七段という決め方。阿部八段の玉をスマートに受けなしに追い込みました。

 藤井七段は二次予選を勝ち進み、あと1勝で挑戦者決定トーナメント(本戦、ベスト16)に進出します。

藤井「まずは決勝トーナメントに進めるように頑張りたいと思います」

 局後に藤井七段はそう語っていました。

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 藤井七段の今年度成績もまた、47勝12敗(勝率0.797)と圧倒的です。2019年度あと2週間。藤井七段は前人未到の3年度連続勝率8割を達成することができるでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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