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これぞ順位戦! 新鋭・近藤誠也六段(23)B級1組逆転昇級 横山泰明七段(39)は敗れて昇級を逸する

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 3月11日。東西の将棋会館に分かれてB級2組最終戦11回戦がおこなわれました。B級1組へは丸山忠久九段(9勝1敗)と近藤誠也六段(8勝2敗)が昇級を決めました。横山泰明七段(7勝3敗)は敗れて、惜しくも昇級を逸しました。

 近藤六段は規定により、七段に昇段します。

 今期順位戦は、これで全ての昇級者が決まりました。

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飯島栄治七段○-●田村康介七段戦

 降級点回避をめぐる争いでは、飯島栄治七段が田村康介七段というしびれる一番がありました。両者は3勝6敗同士。そして降級点を1つずつ持っています。田村七段は前節で昇級候補の横山七段に勝ったのが大きく、勝てば助かります。また飯島七段も勝てば、かなりの確率で助かりそうだと思われました。

 飯島七段が先手で、戦型は相掛かりに。田村七段が横歩を取ってきたのに対して、飯島七段は力強く金を上がって反発。ポイントをあげました。

 夕食休憩に入ったあたりでは、飯島七段が優勢。ふるえず押し切って、19時28分、75手で快勝を収めました。

 飯島七段は勝って4勝6敗。他局の結果次第で、自身の残留の可能性を残しました。

 一方の田村七段は2度目の降級点で、C級1組への降級が決まりました。

近藤誠也六段○-●中田宏樹八段戦

 近藤六段の先手で相矢倉。最近リバイバルでまたよく見られるようになった、先後同型の「脇システム」に進みました。

 近藤六段が相手陣に角を打ち込んで馬を作ったのに対して、中田八段は金を寄せて生け捕りにします。大駒の角と守りの要の金との交換で、損得は難しいところです。

 近藤六段が第2次攻撃の隊列を組んだタイミングで、中田八段も近藤陣に角を打ち込んで、攻めをけん制します。ここで一気に攻め入る順も考えられましたが、近藤六段は中段にじっと攻防の金を据えました。

 終盤に入ったところでは、近藤六段がわずかにリードしていたようです。中田八段は飛車を近藤陣に打ち込んで、寄せ合いを目指します。対して近藤六段はゆるまず攻め続け、次第に一手勝ちがはっきりしてきました。

 最後は馬を切り捨てたのが鮮やかな決め手。そこで得た桂を打って、きれいに寄せ形を作りました。最後は中田玉を受けなしに追い込んで、22時46分終局。近藤六段は8勝2敗として「キャンセル待ち」の状態に。横山七段が敗れれば逆転昇級という状況に持ち込みました。

横山泰明七段-北浜健介八段戦

 北浜八段の中飛車に対して、横山七段は右銀を繰り出します。

 北浜八段が中央5筋の歩を交換して飛車を前線に飛び出してきたのを見て、横山七段は蓋をしてその飛車を窮屈な形にします。北浜八段は横山玉のすぐ上の歩を1枚取っています。どちらの主張が通るか。手の早さから見て、両者ともに自信を持っての進行と思われます。

 中盤を終えるあたりでは、横山七段がややリードしていたかのようにも見えました。

 対して北浜八段も巧みに反撃。終盤戦が進んだあたりでは、勝敗不明となったようです。

 北浜八段が馬で王手龍取りをかける。横山七段が角を打って受ける。北浜八段が王手馬取りをかける。横山七段は盤上中央に角を打って反撃する。見応えのある攻防が続き、それでも均衡は保たれたまま、終盤戦が推移していきます。

 昇級争いでは、近藤六段が勝利を収めて8勝2敗としました。この段階で、横山七段は勝つより他に昇級の可能性はなくなりました。

 他局が全て終わり、横山-北浜戦は劇的な状況を迎えます。

 横山七段は勝てば昇級。負ければ昇級ならず、近藤六段が逆転昇級。

 北浜八段は勝てば降級点回避。負ければ降級点がついて、飯島七段が2回目の降級点を回避(C級1組への降級回避)。ちなみに飯島七段と横山七段は、同じ桜井昇八段門下。飯島七段が1歳上で同世代です。

 最後に残った一局に、昇級と降級点、降級がからむという、これぞまさに順位戦という展開になりました。

 息詰まるような終盤の攻防を制したのは、北浜八段でした。途中は裸玉に近いまでに薄くなった北浜玉の周りには、いつしか2枚の金と龍が守備についています。対して横山玉は北浜八段が反撃に移ると、見る間に薄くなっていきます。

 23時55分。最後は184手。横山七段が万策尽きたところで、ついに投了となりました。

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 負けた横山七段は7勝3敗で昇級ならず。競争相手の近藤誠也六段(新七段)が8勝2敗で、逆転昇級を決めました。

 勝った北浜八段は4勝6敗でからくも降級点回避。一方、同成績の4勝6敗ながら順位の差で、飯島七段は2度目の降級点。C級1組への陥落が決まりました。

 B級2組最終局は、桜井昇八段門下の中田宏樹八段、横山泰明七段、村山慈明七段が揃って敗れ、また勝った飯島栄治七段も降級してしまうという、桜井一門受難の一日となりました。

 B級1組復帰の丸山九段(49歳)と、初昇級の近藤新七段(23歳)。大豪と新鋭が加わって、来期B1もハイレベルな戦いとなりそうです。

 B級1組最終戦は翌日、3月12日におこなわれます。

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将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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