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広瀬章人八段(33)王将戦七番勝負第4局を制して2勝2敗 渡辺明王将(35)に追いつく

松本博文将棋ライター
(記事中の写真撮影・画像作成:筆者)

 2月20日・21日。神奈川県箱根町・ホテル花月園において第69期大阪王将杯王将戦七番勝負第4局▲広瀬章人八段(33歳)-△渡辺明王将(35歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 20日9時に始まった対局は21日19時11分に終局。結果は129手で広瀬八段の勝ちとなりました。

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 七番勝負はこれで両者ともに2勝2敗となりました。

広瀬八段、先手局「キープ」の勝利

 将棋は先手番が少しだけ有利です。近年のタイトル戦番勝負ではその傾向がさらに顕著で、テニスになぞらえ、先手番で勝つことは「キープ」、後手番で勝つことは「ブレイク」とも言われます。

 今期王将戦七番勝負でもここまでの第3局は、いずれも先手番が勝っています。第4局では広瀬八段が先手です。

 4手目。後手番の渡辺王将は角筋を止めました。そう指すと、最近大流行中の角換わりとはなりません。この後、広瀬八段は矢倉、渡辺王将は雁木の構えに組みました。

 広瀬八段は角で歩を交換し、軽く動きます。そのタイミングを見て、渡辺王将は積極的に行動を開始しました。相手が動いてきたところで技をかけるのが、上級者の呼吸と言えるかもしれません。

 渡辺王将は歩を突き捨てて、勢いよく中段に桂を跳ね出していきます。歩を1枚損するだけに損得は微妙かとも思われましたが、現在の渡辺王将の勢いを表しているのかもしれません。さらにはもう1枚歩を打ち捨て、都合2歩損で攻めの形を作りました。

 両者縦から攻め合う、居飛車党には大変参考になりそうな進行。49手目を広瀬八段が封じて、1日目が終了しました。

 本日2日目。中盤のねじり合いの過程で、渡辺王将はさらに歩を2枚捨てます。合計4歩損。広瀬王将の駒台には歩が8枚も乗りました。これは大変に珍しいことです。形勢の方は、その歩の数の分だけ、広瀬八段がリードしたようです。

 苦しくなった局面で、渡辺王将はなけなしの1歩を打って、じっと辛抱します。第3局では、渡辺王将は苦戦が続いたものの、最後は辛抱が実って逆転勝ちを果たしています。

 本局もまた、次第にあやしい気配が立ちこめてきました。渡辺王将は角、飛車の大駒をを順に広瀬陣に打ち込んで、形勢は一手違いの様相を呈してきました。

 対して正確な終盤が身上の広瀬八段。持ち時間が切迫する中で、リードを保ったまま一手勝ちの構図を描いて、着実に寄せを続けていきました。

 盤面いっぱいに使った攻防が続く中、渡辺王将は王手で歩頭に飛を打ちつける鬼手を見せました。もしその飛車を取ってしまえば広瀬玉は詰み。応手を間違えても詰みます。

 広瀬八段は飛車を取らずにその脇に銀の合駒を打ち、正確にしのぎました。

 渡辺王将は形を作り、自玉が詰まされたのを見て投了。熱戦に終止符が打たれました。

 七番勝負はこれで両者が先手番を「キープ」して、2勝2敗。王将位の行方は、残り3戦の結果にゆだねられることとなりました。

 3つの番勝負を並行して戦っている渡辺王将。

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 週明けの2月24日(月)は叡王戦挑決第3局で豊島将之竜王・名人(29歳)と対戦します。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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