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竜王戦七番勝負第5局1日目 午後はおやつ逆配膳のアクシデントの後、本格的な戦いに

松本博文将棋ライター
(画像作成:筆者)

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竜王戦七番勝負第5局1日目 暖房設備不調で30分中断後、再開

 昼食休憩の1時間をはさみ、広瀬竜王はちょうど2時間を消費して、48手目、力強く三段目に金を上がりました。右辺の前線に駒を押し出す積極的な受けです。対して豊島名人は再度銀を前に進め、本格的に駒がぶつかり合う、激しい戦いの機運が高まりました。

 15時。おやつの時間に、アクシデントが起こりました。

 ニコニコ生放送の映像にも残されていますが、スタッフがおやつを運んだ後、豊島名人はじっとお盆に乗せられた「まめ茶ペラ」(津和野の名産であるまめ茶を使ったケーキだそうです)をじっと見つめています。

 それもそのはず、これは豊島名人ではなく、広瀬竜王が注文したものでした。逆に豊島名人が頼んだはずの和菓子「笑小巻」(えみこまき)が広瀬竜王の方に置かれています。

 広瀬竜王も気がつき、両者は互いに顔を見合わせ、笑い合います。対局中には珍しい光景でした。

 広瀬竜王が両手の人差し指をくるくるさせて、関係者に逆であることをアピールします。午前の暖房不調による30分の中断に続いて、珍しいハプニングが起こりました。

 その後は広瀬竜王が左辺から歩をぶつけ、全面的な戦いが始まりました。

 54手目、広瀬竜王が桂を取った局面で18時となり、豊島名人が55手目を封じて、1日目の対局が終わりました。

 明日2日目は朝9時に再開。封じ手が開かれて、夕方から夜頃に決着がつく見込みです。

将棋界おやつ逆事件、過去の事例

 2006年の竜王戦七番勝負は、渡辺明竜王に佐藤康光棋聖が挑戦しました。(肩書はいずれも当時)

 第5局の2日目午後。おやつの注文は、渡辺竜王はモンブランとアイスコーヒー。

(写真撮影:紬記者)
(写真撮影:紬記者)

佐藤棋聖はフルーツルージュ(いちご、フランボワーズなど赤い果実で作られたケーキ)、オレンジジュースでした。

(写真撮影:紬記者)
(写真撮影:紬記者)

 しかし手違いにより、それが逆に運ばれてしまいました。気づいたのは渡辺竜王だけでした。

「いやっ、僕モンブラ…」

指摘する暇もなく、仲居さんは対局者に気を利かせ、足早に静かに部屋を去った。

出典:「妻の小言。」2009年4月27日

 佐藤棋聖がモンブランを食べたのを見届けてから、渡辺竜王はフルーツルージュを食べたそうです。筆者はまさにこの一局を中継していたのですが、そんな経緯があったとは知りませんでした。

 対局の方は熱戦となり、渡辺竜王が佐藤棋聖の猛攻をかいくぐって、佐藤陣にもぐりこむ入玉を達成。146手で渡辺竜王の勝ちとなりました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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