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大型台風迫る中、竜王戦七番勝負開幕 悪天候が過去、将棋のタイトル戦開催に及ぼした影響は?

松本博文将棋ライター
(記事中の写真撮影・画像作成:筆者)

 10月11日9時。東京都渋谷区・セルリアンタワー能楽堂において、竜王戦七番勝負第1局▲豊島将之名人(29)-△広瀬章人竜王(32)戦が始まりました。

 振り駒の結果、第1局の先手番を得たのは挑戦者の豊島名人。戦形は両者ともに得意の角換わり腰掛銀となりました。竜王戦決勝トーナメント▲藤井聡太七段-△豊島名人戦の前例がある進行です。

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 前例では、後手番を持った豊島名人が勝ちました。本局では、今度は豊島名人が先手番を持つことになりました。

 ほどなく豊島名人は前例と違う手を選び、そこからは未知の戦いに。時間の使い方からして、いつもの通り、豊島名人の事前研究が十二分にされていると推測されます。

 2日制の1日目にしては比較的早い進行の中、14時過ぎ、豊島名人は相手の歩の頭に桂を打ち込んで攻めます。矢倉や角換わりではよく生じる攻めの手筋で、相手が桂を取ってくれば、桂1枚の犠牲の代わりに自分の歩を前に進めることができます。

 広瀬竜王は桂を取るか、それとも取らずに当たりになっている金を逃げるか、という選択を迫られます。広瀬竜王は十数分の考慮で、金をかわしました。さらには玉を遠くに移動させます。

 放っておかれると、豊島名人の桂はやや前のめりの印象も受けますが、この先、うまい継続手があれば、活躍の場面を得られるのかもしれません。展開次第では、一気に激しい変化に突入する可能性もありそうです。

 1日目の対局は76手まで進みました。そして18時、豊島名人が77手目を封じて終了しました。

 明日2日目は午前9時に再開されます。

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悪天候がタイトル戦の対局開催に与えた影響

 既報の通り、明日12日は大型で非常に強い台風19号が関東に接近します。その影響で、ニコニコ生放送の中継は中止されるそうです。

 またAbemaTVは解説者、聞き手が出演しない放送となるそうです。

 将棋は屋内でおこなわれる競技です。しかし関係者の屋外の移動などを考えれば、悪天候の影響が出てしまうのは仕方のないところでしょう。

 過去に悪天候が対局に与えた影響を見てみましょう。

 1994年2月谷川浩司王将に中原誠前名人が挑む王将戦七番勝負第5局は、青森県三沢市でおこなわれました。

 その対局前日。中原前名人や関係者を乗った飛行機が、天候不良のために三沢空港に着陸できず、羽田空港に引き返すというアクシデントが起こりました。

 主催者が手配した移動手段で対局場を訪れることができないとなれば、それは不可抗力です。

 王将戦七番勝負は2日制で、持ち時間は各8時間です。しかしこのときは、関係者が協議した結果、1日制5時間に短縮されておこなわれることになりました。これは王将戦史上、初めての措置でした。

 この第5局の結果は、中原前名人が勝っています。続く第6局は谷川王将が勝って、4勝2敗で防衛を果たしました。

 2015年3月渡辺明王将に郷田真隆九段が挑む王将戦七番勝負第5局は、新潟県佐渡市でおこなわれました。

 対局前日。新潟市から佐渡市に向かう船が悪天候のため、欠航となりました。前夜祭の中止が決定され、両対局者や関係者はその夜、新潟市内に宿泊。対局がどのようにおこなわれるのかは、天候の回復状況にゆだねられることになりました。

 対局1日目には天候が回復。両対局者は船で昼前に佐渡にわたることができました。本来の対局開始時刻は9時ですが、この時は13時30分から始まりました。対局時間は8時間から7時間に短縮。2日制から「1日半」の対局となりました。

 この対局の結果は渡辺王将の勝ちで、3勝2敗と先行しました。しかしその後は郷田九段が連勝し、逆転で王将位を獲得しています。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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