「将棋界の鬼軍曹」永瀬拓矢叡王(27)が王座を獲得して二冠に

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 10月1日。兵庫県神戸市・ホテルオークラ神戸において、王座戦五番勝負第3局▲斎藤慎太郎王座(26歳)-△永瀬拓矢叡王(27歳)戦がおこなわれました。9時に始まった対局は21時6分に終局。結果は161手で挑戦者の永瀬叡王の勝ちとなりました。

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 永瀬叡王は3連勝で五番勝負を制し、王座のタイトルを獲得。自身初の二冠となりました。また「タイトル2期獲得」という条件を満たして、八段昇段も決めました。

永瀬挑戦者、難解な一局を制す

 第2局から先後が入れ替わって、本局の先手は永瀬叡王。矢倉志向の序盤作戦を取りました。

 対して斎藤王座は、銀を素早く繰り出す速攻を仕掛けます。攻めの銀と守りの銀の交換に成功すれば、一般的には攻めている側がポイントを挙げたことになります。

 永瀬叡王は、先手陣が主張のない形になってしまい、失敗したと感じていたようです。しかし手順に「銀冠」(ぎんかんむり)の堅陣を組んで、バランスを保ちました。

 逆に斎藤王座からすれば、リードできそうにも思われて、ほとんど差がつかない進行は神経を消耗する展開だったのかもしれません。

「ずっと難しすぎて、わからなかったというのが正直なところですね」

 局後、斎藤王座はそう述べていました。

 永瀬叡王は少し苦しいと感じながらも、形勢はほとんど不明のまま、終盤戦に入ります。

 永瀬叡王はきわどいタイミングで、斎藤陣の形を乱す歩を打ちました。これが通るかどうかは大きなところです。斎藤王座は素直に応じる順を選びました。以後は難しいながらも少しずつ、永瀬叡王のペースとなったようです。

「中終盤は、何かよくなってもおかしくはないかな、と思って指してたんですけれども。でも、予想できない手を多く指されてしまったので。ちょっと最後のところで差をつけられてしまったかな、というところですね」

 最終盤、永瀬叡王は馬(成り角)を捨てて決めに出ました。息長く負けないように指すのがいつもの永瀬流です。しかしもちろん、勝ちが見えれば、決めるべきところでは決めに行きます。

 最後はきわどい一手違いの形となりました。斎藤王座の玉は受けなし。一方で永瀬叡王の玉は詰むや詰まざるや。相当に危ない形なのですが、終盤の秒読みの中で、永瀬叡王は詰みなしと正確に読み切っていました。

 斎藤王座の王手に、161手目、永瀬叡王は玉を逃げます。そこで斎藤王座は、投了を告げました。

永瀬二冠誕生

 永瀬新王座は、今年度が始まった時点では無冠の七段でした。

 そこからまずは、叡王戦七番勝負で高見泰地叡王に挑戦。こちらも同世代同士のフレッシュな対戦でした。そして4-0のストレートで七番勝負を制して、初戴冠をきめました。

 そして王座戦五番勝負では斎藤慎太郎王座に挑戦。東西の若手棋士の代表格同士で、段位でいえば、七段同士の戦い。五番勝負を制した側が「タイトル2期獲得」という条件を満たすことになり、八段昇段をかけた戦いでもありました。そしてこちらも3-0のストレート決着となりました。

 永瀬新王座、新八段は、おそるべき勢いで叡王と併せて二冠となりました。永瀬二冠の実力は近年ずっと、棋界のトップクラスでした。二冠を保持するということについても、意外と思う人は、ほぼいないように思われます。

「序盤で結構わるくなってしまうような気がするので、修正してよい将棋を指していきたいなと思っています」

「一つ結果が出てよかったなとは思うんですけど、今日みたいな序盤とか修正するところが多いと思うので、修正していきたいなと思っています」

「タイトル獲得、二冠ということで、上を目指してまた頑張りたいと思います」

 終局後の永瀬叡王のコメントには、いつもの通り、浮かれたようなところはまったくありません。この先を見据えて、何度か「修正」という言葉を使っていました。

 一方の斎藤前王座にとっては、やや不本意なシリーズとなってしまったかもしれません。

「本局もなんですけれども、中終盤のねじり合いというか、そこの精度で最後に差をつけられてたかなあ、という展開が多かったですね」

 斎藤王座は今期五番勝負をそう振り返っていました。

 両者は順位戦ではB級1組に所属。現在は斎藤前王座は3勝1敗、永瀬新王座は2勝3敗と、斎藤前王座がリードしています。初のA級昇級争いでは、斎藤前王座が一歩リードしています。A級昇級を決めれば、そちらで八段昇段となります。

 9月26日の木村一基新王位の誕生と、本日の王座交替で、新しい席次は以下の通りとなりました。

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 永瀬二冠は押しも押されもせぬトップ棋士の一人です。その愛称はずっと「軍曹」でした。永瀬二冠に大きな影響を与えた鈴木大介九段がそう呼んだことが由来で、現在では将棋ファンにもなじみ深いものとなっています。

 永瀬二冠自身は叡王獲得を機に、もっと昇進させてもらいたいという考えがあったようです。しかし新しい呼び方が決まらぬうちに、王座も獲得して二冠となりました。今だったら、何という愛称がふさわしいでしょうか。