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豊島将之名人(29)が竜王戦挑戦者決定戦に進出 準決勝で渡辺明三冠(35)を降す

松本博文将棋ライター
(記事中の写真撮影・画像作成:筆者)

 8月2日。第32期竜王戦決勝トーナメント準決勝▲豊島将之名人(29歳)ー△渡辺明三冠(35歳)戦が東京・将棋会館でおこなわれました。結果は21時41分、93手で豊島名人の勝ち。挑戦者決定戦三番勝負に進出しました。

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 準決勝のもう1局、永瀬拓矢叡王(26歳)ー木村一基九段(48歳)戦は8月5日に指されます。

令和のゴールデンカード

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 1組優勝の渡辺明三冠(棋王、王将、棋聖)は準決勝から本戦トーナメントに登場。過去に竜王位は史上最多の11期を獲得し、史上初の永世竜王となっています。

 一方、1組4位の豊島将之名人(王位)は準々決勝で藤井聡太七段(17歳)を降しての準決勝進出。竜王戦では初の挑戦者を目指しての戦いが続いています。

 「令和のゴールデンカード」となりつつある両者の対戦は、ここまで渡辺15勝、豊島7勝と、渡辺三冠がリードしています。

 竜王戦1組ランキング戦では2回戦(準々決勝)で対戦し、渡辺現三冠の勝ち。

 王座戦挑戦者決定トーナメントでは2回戦(準々決勝)で対戦し、豊島名人の勝ち。

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 棋聖戦五番勝負では渡辺挑戦者が3勝1敗で豊島棋聖を降し、棋聖位が移動しています。

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 豊島王位は現在、王位戦七番勝負で防衛戦を戦っています。一昨日まで北海道札幌市でおこなわれていた王位戦七番勝負第2局では、木村一基九段を相手に逆転勝ちを収めています。

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 ハードスケジュールはトップ棋士の宿命ですが、豊島名人・王位は移動日の中一日をはさんでの対局となりました。

 準決勝の対局料は、渡辺三冠195万円、豊島名人165万円。この一局に勝つと、挑戦者決定戦三番勝負の対局料450万円まで確定します。

 渡辺三冠は関東、豊島名人は関西の所属で、本局の対局場は渡辺三冠のホームである東京・将棋会館でおこなわれました。

豊島名人、充実の挑戦者決定戦進出

 振り駒の結果、先手番を得たのは豊島名人でした。戦形は両者得意の角換わり腰掛銀となります。

 桂を手早く跳ね出し、先に動いたのは、先手の豊島名人でした。

「桂馬の高跳び、歩のえじき」

 という古くからの格言にもある通り、この桂は歩ですぐに取られてしまうのですが、現代の感覚では、代わりに歩を取って相手陣を乱し、その代償は取れていると見ています。

 桂を損した豊島名人が攻勢をかけ続けるのに対して、渡辺三冠も得した桂を要所に設置して、反撃を試みます。

 中盤の難所で、渡辺三冠は金を三段目に上がって迎撃体制を作りました。対して豊島名人は、渡辺陣の二段目に機敏に歩を放ちます。このあたりから次第に、豊島ペースがはっきりしてきたようでした。

 夕食休憩後、頃やよしと見た豊島名人は、飛車を切ってさらに攻勢を強めます。これもさすがの好判断で、以後はどうも優位が拡大していったようです。

 終盤、渡辺三冠も豊島陣に迫り、角を打ち込んで豊島玉に「詰めろ」をかけました。豊島名人も一手誤れば、途端に逆転となりそうな終盤戦です。

 しかし豊島名人は落ち着いていました。渡辺陣に金を打ち込んだ手が、渡辺玉への「詰めろ」。それと同時に自玉の詰みをも防いでいる「詰めろ逃れの詰めろ」となっていました。

 最後、渡辺三冠は手数を伸ばして延命をはかる手段もありましたが、それを潔しとせず、きれいな投了図を作ることを選びました。

 総手数は93手。手数は短いものの、密度の濃い一局となりました。

 勝った豊島名人は、これで挑戦者決定戦三番勝負に進出。

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 8月5日におこなわれる永瀬拓矢叡王ー木村一基九段戦の勝者を待つ立場となりました。永瀬叡王ならば、王座戦挑戦者決定戦の再戦。木村九段ならば、王位戦七番勝負と並行しての戦いとなります。

 三番勝負の日程は以下の通りです。

 第1局 8月13日(火)

 第2局 8月23日(金)

 第3局 9月5日(木)

 豊島ファンにとっては、熱い夏が続いていくことになりそうです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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