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永瀬拓矢叡王(26)が王座挑戦権獲得 決定戦で豊島将之名人(29)を降す

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 7月25日。大阪の関西将棋会館において、王座戦挑戦者決定戦▲永瀬拓矢叡王(26歳)-豊島将之名人(29歳)戦がおこなわれました。結果は19時22分、125手で永瀬叡王の勝ちとなりました。

 斎藤慎太郎王座(26歳)に永瀬叡王が挑戦する五番勝負は9月2日に開幕します。

二十代トップ棋士同士の対戦

 豊島名人(王位と併せて二冠)、永瀬叡王という、タイトルホルダー同士の対決となった挑戦者決定戦。

 両者ともに長くその実力を評価されていながら、ここ最近でようやくタイトルに手が届いたという点は、共通しているかもしれません。

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 豊島名人は昨年から棋聖、王位、名人と奪って一気に三冠に(現在は棋聖を失って二冠)。永瀬叡王は今年度、初タイトルの叡王位を獲得しています。

 両者ともにいま現在も各棋戦で実績を重ねているところですが、豊島名人は一昨日、竜王戦決勝トーナメント準々決勝で藤井聡太七段を破ったのは記憶に新しいところです。

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 豊島名人の本局までの今年度成績は、13勝3敗で、その3敗は全て渡辺明現三冠に喫したものでした。その渡辺三冠とはまたもや竜王戦準決勝で対戦します。

 一方の永瀬叡王は14勝8敗。竜王戦でも勝ち進んでおり、そちらの挑戦者決定戦も、豊島-永瀬となる可能性もあります。

 昨年の棋聖戦五番勝負が終わり、豊島挑戦者が羽生善治棋聖からタイトルを奪った時点で、将棋界は8つのタイトルを8人が持ち合うという群雄割拠の時代に突入したかに見えました。しかしほどなく、豊島(現二冠)、渡辺明(現三冠)という複数冠保持者が現れています。本局の勝者が王座に挑戦し、獲得となれば、少数の棋士によるタイトル寡占化の傾向が進むことになるかもしれません。

永瀬叡王、手厚い指し回しで完勝

 両者の過去の対戦は意外と少なく、2局戦って、いずれも豊島現名人が勝っています。

 振り駒の結果、先手は永瀬叡王に。永瀬叡王が用意していたは5筋の歩を突かないで、自陣を金銀3枚の「金矢倉」(きんやぐら)に組む作戦。その後は永瀬叡王の想定していた局面に進んでいたわけではなかったようですが、機敏に仕掛けてリードをうばいました。

 「作戦に対応できなかったような気がします。仕掛けられて長考したんですけど、勝負にできる順が思い浮かばなかった」」という豊島名人。「名人に定跡なし」という言葉を思わせるように、金を三段目に上がる、あまり類例のない受け方をしました。「どうやっても自信がなかったので勝負手気味だったんですけど、キズを深めてしまったかもしれないですね」(豊島)という局後のコメントにもある通り、結果的にはよくなかったようです。

 永瀬叡王は相手陣左隅にできた隙間に銀を打ち込み、午前の早い段階でリードを奪いました。

 永瀬叡王が駒得(こまどく)を実現する間に、豊島名人は玉を右側に逃げ越して、今度はそちらで戦いが始まりました。豊島名人の玉の近くで長く戦いが続き、その間に永瀬叡王のリードは着実にに広がっていきます。

 優位に立ってからの永瀬叡王は、棋風通りに着実で手厚い。負けない指し回しで、最後まで慎重にゆるまず進めました。

 終局時刻は、比較的早い19時22分。永瀬叡王はほぼ完璧に近い内容で、大きな一番を制しました。

五番勝負は若手同世代の対決

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 永瀬拓矢叡王は1992年生まれ。斎藤慎太郎王座は1993年生まれ。五番勝負は同世代、若手トップクラスの対戦となりました。

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 両者の過去の対戦成績は1勝1敗。

 2015年度の竜王戦決勝トーナメントでは永瀬叡王勝ち。

 2019年7月11日、先日おこなわれたB級1組順位戦3回戦では、斎藤王座が勝っています。

 五番勝負の行方は、果たしてどのようなものとなるでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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