藤井聡太七段(16)が感動の名局を制して久保利明九段(43)に勝利 竜王戦決勝トーナメントを勝ち進む

(画像撮影:筆者)

 7月5日(金)。関西将棋会館において、竜王戦決勝トーナメント▲久保利明九段(1組5位)-△藤井聡太七段(4組優勝)戦がおこなわれました。

 終局時刻は23時23分。総手数は184手。劇的な終盤戦を乗り切り、棋史に残る名局を制したのは、若き天才・藤井七段でした。

 藤井七段はトーナメントを勝ち進み、次戦で豊島将之名人(王位、棋聖)との対戦が決定。またその対局料120万円も獲得しました。

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藤井七段の出世将棋か

 筆者はこれまで藤井七段の対局を伝える際、何度も「名局」と表現してきました。それは決して、筆者の語彙が足りないから、だけではないでしょう。今回も、それほどまでの名局。感動的な名局でした。

 竜王戦決勝トーナメントを勝ち進み、タイトル戦初登場を目指す藤井聡太七段に対して、待ち構える相手は、どこまで行っても強敵ばかりです。

 久保利明九段はタイトル7期、棋戦優勝6回などの実績を誇る、現代のトップ棋士の一人です。2018年度、年間最高勝率を目指す藤井七段に年度最終盤で勝ち、記録更新にストップをかけたのが、久保九段でした。

 対局は午前10時に始まりました。振り駒の結果、先手番を得たのは久保九段。まずは振り飛車党の久保九段が、どの位置に飛車を振るのかが注目されました。

 前回の久保-藤井戦では、久保九段の作戦は四間飛車でした。本局では▲5八飛と中飛車を採用しました。

 

 藤井七段は、金銀をじっくりと組み上げます。そして飛車交換から戦いが始まりました。互いに龍(成り飛車)を作って、まさにねじり合いという攻防が続きます。そしていち早く相手の本陣に迫る態勢を作ったのは、藤井七段の方でした。

 藤井七段が押し切るか、それとも久保九段が押し返すか。そんな局面で、藤井七段が才気あふれる一手を見せました。それが△8五桂という桂捨てです。桂を1枚捨てる間に攻撃陣を前に進める。そしていつしか、優位を築くことに成功しました。

 桂は使いづらい駒です。だからこそ、その桂を上手く使えるのは、才能あふれる証拠だと言われます。かつては中原誠16世名人、現在では藤井聡太七段が、桂使いの名手の代表と言えるでしょう。

 久保九段は「さばきのアーティスト」の異名の通り、芸術的で華麗な棋風が知られています。しかし一方で、強靭な粘り腰も定評のあるところです。

 将棋界の強者はいつも、逆境に立たされたところで、その真価を発揮します。

 久保九段は陣形をへこまされながらも、きわどくしのぎ続けます。ついに藤井七段はっきり優勢かと思われるところから、何度も何度も押し戻し続ける。

 前回の久保-藤井戦も、久保九段は藤井七段の攻めをしのぎ続け、最後には勝利を収めています。

 強者同士の戦いは、えてしてなかなか終わりません。どちらが勝ってもおかしくない終盤戦が、延々と続きます。

 残り時間は切迫し、形勢も混沌とする。並のルーキーであれば、冷静さを失うところかもしれません。しかし藤井七段はいつものように、終始落ち着いているように見えました。

 最後は秒読みの中「指運」(ゆびうん)とも思われる勝負に。一手指すごとに形勢が揺れ動きました。

 そしていよいよ、最後の最後。勝負の行方は、藤井玉が「詰むや詰まざるや」という一点にしぼられました。そして、藤井玉には長手数ながら詰みが生じています。

 秒読みの中、久保九段が難解な詰みを読み切れるかどうか――。

 もし時間があれば、久保九段ならば読み切ったかもしれません。しかし秒読みの中で、わずかに手順を誤りました。

 藤井七段は、自玉に詰みなしとなってからは誤りません。そしてついに、藤井玉が詰まないことがはっきりしました。

 観戦者が一様に言葉をなくしてしまうような、そんな名局でした。こうした一局をリアルタイムで観戦できる現在を、幸福と思うよりありません。もし藤井七段がこのまま竜王位にまで登りつめるとするならば、「藤井の出世将棋」として、後世にまで語り継がれる一局となるのは間違いないでしょう。

 トーナメント表に戻りましょう。

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 藤井七段が次戦で対戦するのは、豊島将之名人(王位・棋聖)です。そして、もしそこを抜けたとしても、渡辺明二冠(棋王・王将)が待ち構えています。

 この先、またどんなドラマが生まれるのか。

 今後の藤井七段から、ますます目が離せません。