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現代の憧れの女性像とは? 多様化時代に女性が求める女性の条件

松井博代博報堂キャリジョ研代表/ストラテジックプラニングディレクター
(写真:アフロ)

憧れの女性像

 女性のことを研究していると、たまに「今の時代はどんな女性が人気ですか?」というご質問をいただきます。博報堂キャリジョ研では、働く女性を7タイプに分類しています。仕事に打ち込むタイプ、結婚を重視するタイプ、仕事はそこそこで趣味に注力するタイプ、仕事も結婚も趣味も全部充実させたいタイプなど、生活のウェイトが異なる女性たちです。実際は、7タイプどころかもっと細かく分かれると思いますし、志向の多様性が顕在化してきている昨今、憧れの女性像を一人の女性の在り方に規定することは、難しくなっているように思います。

以前は“カリスマ”が存在した時代

 憧れの女性像は、その時代の人気な芸能人に表れていると思います。昨年引退した安室奈美恵さんは、1990年代に女子高生を中心に大人気に。そのファッションを真似する女性たちは“アムラー”と呼ばれました。2000年代に入ると、“愛されOL”のお手本としてモデルの“エビちゃん”こと蛯原友里さんが人気を博します。着ている服は即日完売で、その人気から“エビ売れ”という言葉もできました。この頃まではファッションと人気な女性像は連動しており、なりたい憧れ像もはっきりしていたと思います。

 しかし、2010年代に入ると“こなれ”という言葉とともに、ファッションテイストは甘すぎない大人っぽさやメンズライクが流行ります。その後もノームコア(“究極の普通”と訳される標準的なファッション)、スニーカーやリュックといったカジュアルファッションの流行が続きますが、そのファッションをリードする象徴的な人物は見えにくくなってきました。なお、現在インスタグラムでフォロワー数が日本一と言われている渡辺直美さんは、個性的なメイクやファッションを女性たちが注目をしているのもありますが、「面白い」などの評判も加わり、これまでのファッションアイコンとしての憧れ像だけではないことがわかります。

 さらに、女性たちへのアンケートやインタビューで好きな芸能人や理想の女性像を聞いてみると、「色気がある神崎恵さん」「凛としている竹内結子さん」「モテテクがためになるゆうこす(菅本裕子さん)」「透明感のある石田ゆり子さん」など選ばれる女性のタイプも理由もまちまち。必ずしも同世代とも限らず、理想を一人に絞る、または共通点を見出すことへの難しさを感じます。

ロールモデル不在の多様化時代へ

 こうして、女性の志向が多様化するのと同じく、憧れの女性像は多様化の時代となってきました。しかし、これは女性が多様化したから憧れ像も多様化したというほど単純ではないと考えています。その背景には、私が“マイフィット消費”や“自己基点主義”と呼んでいる現代女性の特徴とも大きく関係し、無理しすぎずに、現在の自分(身体やパーツの大きさ、形や、趣味嗜好など)を活かしてもっと素敵に見せる工夫をしたいイマドキ女性たちのインサイトが芽生えてきた結果、「一人の女性像にみんなが合わせようとする時代ではなくなった」ということが大きいのだと思います。

 また、ブログやSNSの普及により生活そのものまで垣間見ることができるようになり、ライフスタイルや生き方が素敵か、ということも憧れの対象になってきました。考慮する要素が多くなるほど複雑化するため、ロールモデルを一つに絞りきれなくなる現象も起こります。よって現在は、“ロールモデル不在”とも言えますし、「この人のライフスタイルは真似したい」「この人の仕事への向き合い方は尊敬する」など、よいところを自分でピックアップする“ロールモデルのキュレーション(編集)”をする時代にもなってきているのです。

理想よりもわかりやすい“反面教師”

 キュレーションができるということは、自分なりの選択条件があり、選り分けることができるということだと思うのですが、選ぶ自由がある反面、選びきれない“迷子”も出現するのではないかと思います。実際に、インタビューで聞くと理想の女性像を具体的な人でも条件でも答えられない女性も少なくありません。そんな迷いを表しているのか、昨年シティリビング・リビングくらしHOW研究所と博報堂キャリジョ研が共同で行った調査では、こんな結果も出ています。

 「職場の中に、あなたが憧れている女性はいますか?」という質問に、「いる」が2割程度なのに対して、「職場の中に、あなたが反面教師としている女性はいますか?」という質問には「いる」が5割を超えて、2倍以上高い結果に。

シティリビング・リビングくらしHOW研究所・博報堂キャリジョ研共同調査 「働くアラサーシングル女性の「キレイ」に関する調査」(2018)
シティリビング・リビングくらしHOW研究所・博報堂キャリジョ研共同調査 「働くアラサーシングル女性の「キレイ」に関する調査」(2018)

 以前は「勝ち組」「負け組み」という概念もあったように、分かりやすい“正解”があったのに対して、多様性が進むと、いろいろな女性の在り方・生き方が肯定されます。どれも“正解”の中から選んでいくのは難しい一方で、どれは“ダメ”かを選ぶことは案外簡単なのかもしれません。理想がはっきりしている人は、自分基点に理想な見た目から人生観までを編集し、はっきりしない人は、“なりたくない女性の条件”くらいは持っておく。そんな二極化傾向が進んでいるのではないかと感じます。

博報堂キャリジョ研代表/ストラテジックプラニングディレクター

2008年博報堂入社。マーケティング担当として主に女性ターゲットの新商品開発、ブランディングに従事。2013年には社内横断プロジェクト「博報堂キャリジョ研」を立ち上げ、20~30代の働く女性(=キャリジョ)について研究し、ナレッジを活かした業務にも携わる。現在は女子大生へ早期キャリア教育プログラムの開発、キャリママ研究など、研究範囲を広げている。宣伝会議など多数講演。2019年4月より社内プロジェクト博報堂行動デザイン研究所にも所属。共著『働く女の腹の底 多様化する生き方・考え方』(光文社新書)

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