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人新世と日本農業~国際果実野菜年、果樹と野菜への気候変動の影響を考える~

松平尚也農業ジャーナリスト、龍谷大学兼任講師、AMネット代表理事。
フランスでは最近、温暖化の影響でブドウの収穫が早まっている(写真:ロイター/アフロ)

  霜害高気圧?による温暖化被害

 2021年は国連が定めた「国際果実野菜年(International Year of Fruits and Vegetables:IYFV2021)」だ。そこでは果実と野菜が人間の栄養、食料安全保障、健康、そして持続可能な開発目標(SDGs)に果たす重要な役割が紹介されている(※1)。

 国際果実野菜年の春、東北や北関東で果樹や野菜が大きな影響を受けているというニュースが相次いだ。農家の技術と営農を支える全国農業改良普及協会の温暖化のサイト(※2)を見ると、3月の高温で果樹や野菜の生育や開花が早まっていた所に氷点下の冷え込みとなり、山形のサクランボや長野のリンゴ、福島・栃木県の梨などの果樹に加えてアスパラガスなどの野菜にも被害が広がった、ということだ。

 同サイトによるとその原因は、ラニーニャ現象等が影響し3月に高温が続いた一方で4月上旬に寒冷禍が北海道や北陸以北で積雪を起こした。その後に移動性高気圧が通ったため、放射冷却が強まり夜間は冷え込み、関東~東北の広い範囲で凍霜害が発生させたということだ。

 高気圧と聞くと暖かい空気を運ぶイメージがあるが、大陸北部から南下して冷たい空気を運ぶ「霜害高気圧」と呼ばれる。この霜害高気圧が果樹や野菜に霜害をもたらせたということなのである(※2)。

 未曽有の環境変化に対してこれまでの農業政策では対応できない現状が見られる。果樹の収穫への被害に対しては、果樹共済という制度があるが加入率は約25%であり、気候変動の影響については農家が自家負担している状況がみられるのだ。農水省は収入保険への加入を呼びかけ対策としているが、例えば霜害の被害が大きかったサクランボ(果樹共済の非対象の品目)の主要生産地である山形県全体の収入保険加入者数は目標の3割(700人)にとどまっているのが現状だ(※3)。

 春の気候変動の影響は海外でも

 寒波はさらに世界有数の果実であるブドウにも影響を及ぼしている。フランスではブドウをはじめ果樹に甚大な被害をもたらした。被害の様相は日本と同様であり、記録的な暖かさが続きブドウの生育が早まった後で、寒波による霜害が起こっている。被害はブドウ産地の80%にも及んだというから驚きだ。

果樹ではないが同様の被害は、日本の最大の食料輸入先の米国でも起こっている。今年2月米国穀倉地帯である中西部にcold snap(一時的な寒波)が襲来し、冬小麦やトウモロコシ・大豆の収穫や播種に影響を与えた(※3)。これを受けて小麦やトウモロコシの先物価格が急上昇している。

 今後も気候変動による凍霜害は毎年起こることも予想される中で、農業への影響は、他国で起こっている事態ではなく、最早私たちの食卓と直結する課題となっていることが伺えるのである。

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農業ジャーナリスト、龍谷大学兼任講師、AMネット代表理事。

農・食・地域の未来を視点に情報発信する農業ジャーナリスト。龍谷大学兼任講師。京都大学農学研究科に在籍し国内外の農業や食料について研究。農場「耕し歌ふぁーむ」では地域の風土に育まれてきた伝統野菜の宅配を行ってきた。ヤフーニュースでは、農業経験から農や食について語る。NPO法人AMネットではグローバルな農業問題や市民社会論について分析する。有料記事「農家ジャーナリストが耕す「持続可能な食と農」の未来」配信中。メディア出演歴「正義のミカタ」「めざましテレビ」等。記事等に関する連絡先:kurodaira1974@gmail.com(お急ぎの方は連絡先をご教示くだされば返信します)。

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