検証・日米貿易交渉  野党合同ヒアリングから見えてきたその姿

米国・ケンタッキー州のトウモロコシ畑(写真:ロイター/アフロ)

  

ヒアリングの三つの論点

 日米貿易交渉が大枠合意し、9月末の貿易協定署名を目指し、事務レベルで最終調整に入った。その中で交渉から数日たった8月28日、立憲民主・国民民主などが交渉に関する野党合同ヒアリングを国会内で開いた。ヒアリングには内閣府・外務省・農林水産省・経済産業省等から交渉担当者が出席し、野党側からのヒアリングに答えた。浮き彫りになったのは交渉が抱える大きな課題だ。

 ヒアリングで大きな議論になったのは、次の三つの点である。一点目は、今回の基本合意における農林水産品が昨年の日米共同声明で確認された既存の経済連携協定の枠内で協議されたか、ということ。二点目は、今回突如発表された米国の余剰トウモロコシ275万トンの購入についてだ。そして三点目は、米国通商代表のライトハイザーが今回の合意で日本が米国農産物に対して1.5倍の市場開放の成果を得たと発言したことを巡ってだ。本記事では、ヒアリングの中心議題であった農産品に関するやりとりを中心にまとめていく(※1)。

 まず一点目の論点である、今回の日米貿易交渉基本合意が、日米共同声明の「農林水産品について、過去の経済連携協定で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限」というラインを超えていないかについて多数の質問が出た。また出席議員からは牛肉セーフガード等についてTPP(環太平洋パートナーシップ協定交渉)との関連から質問も出された。それに対し担当者は、合意内容の詳細や個別の品目については、協議が進行中のため説明できないと繰り返した。野党側からは不満が噴出。米国側から情報が出ているのに日本側はなぜ出せないのかと批判の声が上がった。ヒアリングでは、TPPを離脱した米国に対してなぜTPP諸国と同じレベルの恩恵を与えるのかという疑問も出された。

  

米国余剰トウモロコシ購入を巡って

 二点目は、新聞でも大きく報道された米中貿易摩擦によって余った米国産トウモロコシの大量購入についてだ。当日資料でも配布された「交渉に関する日米首脳の記者会見」においてトランプ大統領は日本が余剰トウモロコシを全量購入すると主張している。これに対して担当者は、トウモロコシ購入の話は、日米交渉と別の話で関連するものでなく、あくまで国内で発生しているトウモロコシの害虫対策として飼料メーカーが前倒しで飼料を購入できる環境を整備するための新規事業と回答。また報道されている275万トンの米国余剰トウモロコシを全量買い取るという事実はないと主張した。

 この回答に対して野党側からは質問が集中。害虫による被害の現状、事業の経緯や裏づけと内容について問うた。担当者は害虫の被害量は今後明らかになると返答し、議論は紛糾。野党側は、被害量が明らかでないし、主要な穀物産地である北海道では被害も発生していないのに、なぜ米国から大量購入をするのかと更に問うた。担当者は、今回の事業はあくまでも国側は民間側の飼料メーカーが害虫対策に前倒し購入するための環境を整備するために(倉庫代等の)保管料と購入する際借り入れする場合の金利分を全額補助するのみで購入や輸送費の補助はしない。その保管量の上限が年間消費量の4分の1である275万トンであり購入の約束はしておらず、また保管補助事業は、緊急の畜産対策として交渉合意前の8月4日に発表したものだと主張した。

 野党側は米国側の主張と異なると疑義を呈したが、担当者は購入の約束はしておらず保管するトウモロコシが米国産である義務もないと答えた。その一方でトウモロコシ購入金額は何百億になるのかと問われると、そこは返答できないとお茶を濁し購入する可能性を完全に否定しなかった。いずれにせよ国会関係者以外にはにわかに信じられない、忖度外交とトランプ外交により情報が錯綜する中での議論になった感は否めない。野党側はこの件に関して、トランプ大統領の(余剰)トウモロコシを全て購入するという主張が事実と違うのであれば、害虫対策の被害量と新規事業の経緯を含めて公式見解としてまとめて欲しいと要請した。

 参加議員の一人からは、害虫対策自体が水田活用の国内政策の方向性と乖離しているのでは、という質問も出たが筆者も同感だ。農林水産省は現在26%(2017年)である国内の飼料自給率を2027年までにエコフィード利用や飼料用米の拡大等により向上させ40%まで引き上げすることを目指している(※2)。今回の交渉結果はこうした政策と逆行し、関係者の努力と飼料の国内生産の機運を台無しにするものでもあるのだ。

 トウモロコシ購入に関する日本側の発言は、トランプ大統領の「トウモロコシ購入の取引を日米貿易交渉と補足的合意ともいえる(共同記者会見発表)」という発言と乖離があり、米国側の発言だけみると今回の合意が既存の経済連携協定を超えているという評価にも正当性があるのも事実だ。引き続きこの件に関し交渉を注視していく必要があるといえる。

  

  

署名前に内容の公表が必要だ

 三点目は、米国通商代表部(USTR)のライトハイザー代表による今回の合意で日本が米国農産物に対して1.5倍の市場開放の成果を得たという発言を巡ってだ。野党側からは、現在日本は少子化で、国内農産物の需要も頭打ちなのに、どうやって新たに約7400億円もの米国農産物を輸入できると考えるかと問うた。担当者は、この数字については根拠を把握していない、承知していないと回答。野党側からは、日米首脳と両方の責任者がいる共同記者会見で発表された発言であり、事実と異なるのであればその場で否定しなければならないと怒りを露にした。担当者は、現時点では、主要項目について意見の一致をみたというのが正確な表現。日米両首脳間において意見が一致した内容の中身については合意した時点で説明したいと堂々巡りの説明を繰り返した。野党側からは、70億ドルの農産物の市場開放という発言が事実と違うのであれば、この点についても公式見解を出して欲しいと要請した。というのもトランプ大統領は、トウモロコシ以外にも小麦について大量購入という話もあると発言し、ライトハイザー通商代表にいたっては、70億ドルの合意が、米国の農業分野において、牛肉・豚肉、小麦、乳製品、ワイン、エタノールその他様々な産品に大きな恩恵をもたらす、と共同記者会見で具体的に公表しているからだ。野党側は、詳細な交渉結果を公開しないその態度自体を改めるべきと語気を強める場面もあった。

 ヒアリングでは、交渉のもう一つの主要議題であった自動車の関税撤廃や追加関税についても質問が出たが、担当者はトランプ大統領の発言、日本には中国と違って高関税を課すことはしないというものを紹介するにとどめ詳細は説明しなかった。

 一方、ヒアリングの翌日・29日に自民党により開かれたTPP・日EU・日米TAG等経済協定対策本部の会合では、署名前に農業団体等に説明するため協定内容の公表が要請された。TPPなど他の経済連携協定では、署名までに内容を公表されていたからだ。今回のヒアリングで明らかにになったのは、内容が明らかにならないと議論ができないという当たり前の事実である。日米貿易交渉は、関連産業に大きな影響を及ぼすことが予想される。政府側は9月末までに交渉内容を明らかにし、議論してから署名すべきであるといえるだろう。

(※1)ヒアリングの結果については、国民民主党の森ゆうこ参議院議員公開の当日資料

第3回 日米貿易協定密約問題 野党合同ヒアリング資料

・省庁出席者

・日米貿易交渉:閣僚協議及び首脳会談結果概要

・日米共同声明(2018年9月26日)

・日米貿易交渉に関する日米両首脳の記者会見(2019年8月25日)

・茂木大臣ぶら下がり(取材)の概要(2019年8月25日)

http://www.mori-yuko.com/activity/files/190828.pdf

と立憲民主党の石垣のりこ参議院議員が公開している当日の動画

20190828野党ヒアリング

https://ssl.twitcasting.tv/norikorock2019/movie/564008963

をメモに起こして内容を精査しまとめた。

(※2)次の資料を参照。「飼料をめぐる情勢」農林水産省生産局畜産部飼料課、2019年7月