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ベレーザのルーキー・FW藤野あおば。18歳のゴールハンターがWEリーグで示した規格外の存在感

松原渓スポーツジャーナリスト
藤野あおば(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

【ルーキーイヤーで掴んだチャンス】

 5月末に、1年目のシーズンを終えたWEリーグ。神戸が初代王者の座に就き、最終戦までもつれ込んだ得点王争いは、20試合で14ゴールを決めたFW菅澤優衣香(浦和)が制した。

 プロのキャリアをスタートさせた選手が多い中、各チームから新たなスター候補が台頭。また、新卒ルーキーの活躍もリーグを盛り上げた。

 中でも、3月以降の後半戦で大きなインパクトを残したのが、日テレ・東京ヴェルディベレーザのFW藤野あおばだ。昨年、十文字高校(東京)から特別指定選手としてベレーザに加入した18歳の新星ストライカーである。

 今季、ベレーザは主力のケガや海外挑戦などが重なり、前線の3トップは流動的に。竹本一彦監督は新戦力を積極的に起用し、藤野は10月の埼玉戦でWEリーグデビュー。シーズンを通して10試合に出場、4ゴールを決めた。

 主戦場は3トップの右だが、前線のポジションはどこでもこなす。利き足は右だが、左足でも強烈なシュートが打てる。

 ドリブルのタッチは細かく、方向転換も自在。トップスピードでも上体が安定していて、水面を旋回する水すましのように滑らかだ。

 中盤の底で攻守のバランスを取るMF三浦成美も、新鮮な驚きを口にした。

「感覚が合うのでやりやすいし、個人で突破できる能力もある。途中から入ってきて、すごくいいアクセントになっていました。もっと、あおばを活かせるようにやっていきたいと思っています」(16節・神戸戦後)

 高度なポジショニングと判断力を求めるベレーザのサッカーに1年目から適応し、活躍できている。それは、基本的な「止める・蹴る」の技術や戦術理解度の高さを物語る。

 中学時代、下部組織(セリアス)でプレーしていたことも大きいだろう。

 ただ、その後は他の生え抜き選手たちとは異なる道を進んでいる。強豪・十文字高校に進学し、1年次から試合に出場。インターハイで全国優勝に貢献し、年代別にもコンスタントに選出されるなど、高校女子サッカー界では群を抜く存在となった。

 2020年のU-17代表合宿を取材したとき、当時16歳だった藤野は、練習試合でひとまわり体格の大きい男子高校生にスピード勝負で競り勝ち、強烈なシュートを放っていた。50m走の最高タイムを聞くと、「6.8秒」とのこと。同年代の男子選手に引けを取らない俊足だ。その武器に磨きをかけてきたことを明かした。

「スピードはもちろんですけれど、足下と、相手の背後を狙うバランスを考えて、常にいい判断をすることを意識しています。得点を奪えなければ負けてしまうのがサッカーなので、ゴール前での強さや、シュートをしっかり決めることをチームでも意識的に取り組んでいきたいです」

 ピッチ上の振る舞いにも通じる、堂々とした口調だった。

 それから2年が経ち、プロリーグでデビューした藤野は、進化の跡をはっきりと示した。

【ラスト6試合で残したインパクト】

 今年4月23日の千葉戦で決めたWEリーグ初ゴールは、鮮烈だった。相手ペナルティエリア右隅でボールを受けると、右をオーバーラップしたDF清水梨紗が作ったスペースを使い、軽やかなタッチでカットイン。左足を振り抜くと、グラウンダーの強烈な弾道が密集を抜け、GKのニアサイドを射抜いた。この試合は、Jリーグとの共催で味の素スタジアムで行われていたこともあり、男子トップチームのサポーターも沸かせるスーパーゴールだった。

味の素スタジアムでWEリーグ初ゴールを決めた
味の素スタジアムでWEリーグ初ゴールを決めた写真:長田洋平/アフロスポーツ

「サポーターの方々の声援がいつにも増して多いと感じていたので、緊張も多少ありましたが、ワクワクした気持ちで試合に入ることができました」

 試合後、大舞台に立った感想を、生き生きとした口調で語った。だが、試合は2-3で千葉に痛恨の逆転負け。

「チャンスがたくさんあった中で決めきれなかったことは、今後の課題です。(ボールを)取られた後の切り替えが遅れてしまったと反省しているので、直していかなければいけないと思っています」

 先発は3試合目だったが、藤野はチームを勝たせることができなかった責任を噛み締めているようだった。

 続く相模原戦(◯2-0)では2試合連続ゴールを決め、自らのゴールで初めてチームを勝利に導く。その勢いは止まるところを知らず、次の新潟戦では一人で8本ものシュートを放った。多彩な仕掛けからフィニッシュまでの完璧な流れを複数作り出し、非凡な攻撃センスを見せつけた。

 だが、結果はスコアレスドロー。わずかに枠を逸れたシュートを見送って、悔しそうに拳を握る場面が何度も見られた。

 翌週の仙台戦(◯2-1)では、ゴールこそなかったものの、終盤にDF宇津木瑠美の決勝弾につながるシュートを記録。

 そして、最終節。相手は開幕戦で敗れた強豪・浦和だったが、藤野は先制点を含む2ゴールを奪い(結果は2-2)、3位フィニッシュに貢献した。

 4月以降のラスト6試合で4ゴール。対戦相手に警戒され、マークが厳しくなる中でも伸び伸びとチャレンジし、確かな結果を残した。

 プロリーグ初年度について、藤野はベレーザの公式サイトのインタビューでこう振り返っている。

「高校サッカーと違って、判断とかパスとか、いろいろなスピードが早いなと感じていました。試合にで始めた頃は、そこにうまく馴染んでいかなければなと感じていましたが、周りの選手がコミュニケーションをとってくれて、自分らしく、思い切ってプレーすることができたと思います。その中でも得点や決定力は、自分自身の課題だなと痛感しました」

「上手いと思った選手は?」という質問に対し、藤野は二人の先輩を挙げた。

「清水(梨紗)選手は指示が的確で、1対1のボール奪取力は、チームの中でもずば抜けた選手だと感じています。三浦選手は、いろんな人の動きに合わせて丁寧なパスが出せる選手です。機転を利かせて、運動量も多いし、代表にも選出されていて、やっぱり上手いな!と感じました」

 意志的なショートヘアからのぞくつぶらな瞳は、ピッチ上で見せる大胆さや獰猛さとはギャップがある。ただ、その言葉からは日々の練習で周りを細やかに観察し、貪欲に吸収していることが伝わってくる。

 最終節が終わってから休む間もなく、U-20代表合宿に合流した藤野。8月に予定されているFIFAU-20女子W杯(コスタリカ)では、中心選手として、活躍が期待されている。

 なでしこジャパンとU-20代表の指揮を兼務する池田太監督は、「経験を重ねて自信をつけてきている選手もいて、選手同士が話す時の会話の軸になる。その経験が、(他の)選手たちの幅を広げてくれていると思います」と、WEリーグで活躍するルーキーたちに期待を込めた。

 プロ選手たちがしのぎを削る国内最高峰の舞台で、力強い一歩を踏み出した藤野。3カ月後に迫るU-20W杯を経て、来シーズンは開幕から大暴れしてほしい。

来季はさらに得点数を伸ばすことができるか
来季はさらに得点数を伸ばすことができるか写真:長田洋平/アフロスポーツ

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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