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5・14 国立競技場で女子サッカー頂上決戦。安本社長が手配したカンプノウとアメリカへの挑戦状

松原渓スポーツジャーナリスト
国立競技場で神戸と浦和が激突する(写真提供:INAC神戸)

 WEリーグ初代女王に輝いたINAC神戸レオネッサが、5月14日(土)のホーム最終戦を“聖地”国立競技場(東京)で開催することを発表した。対戦相手は、皇后杯女王の三菱重工浦和レッズレディースだ。

 集客は2万人を目指しているという。スペインでは女子のバルセロナが、今年4月22日のチャンピオンズリーグ準決勝第1戦を男子チームの本拠地カンプ・ノウで開催。9万1648人の観客を集め、女子サッカー界の世界記録を更新した。

 国立競技場での開催を主導したINAC神戸の安本卓史社長は、「指をくわえてそれを見ているつもりはありません」という。

「9万人という数字は、スペインのサッカーファンが女子サッカーの価値を認めている証です。日本でそこまでは難しいですが、国立で1万人は超えないと話にならないと思っていますし、2万人の壁に挑んだチームはまだない。その意味では、今回の国立開催は、カンプノウや、(女子サッカー大国)アメリカへの挑戦状でもあります」

 国立では4月29日に、FC東京がガンバ大阪と初のJ1公式戦を開催。420発の花火が東京の夜空に打ち上げられ、炎を使った入場シーンなどの華やかな演出も話題になった。

 5月14日、INAC神戸は国立競技場に、どのような“仕掛け”を用意しているのだろうか。安本社長にお話を伺った(前編)。

安本社長インタビュー

ーー今回、集客は2万人を目指すそうですね。WEリーグはコロナ禍のスタートだったことや、認知度の低さもあり、1試合平均観客数は約1,500人弱と集客に苦戦しています。それだけに、インパクトのある数字です。

安本氏:

まずは、そこに挑むことが大事だと思っています。もともと関東圏は女子サッカー人口が多いので、一番集客しやすい場所なんです。INACもファンクラブの50%近くが関東圏の方なんですよ。関東圏で「聖地」と呼ばれるスタジアムは他にもあるけれど、国立はアクセスしやすく、みんなが来やすい場所です。

ただ、これはいつも言っていることなのですが、集客にもお金が必要です。「本当に、女子サッカーが国立でできるの?」とよく言われますが、逆に、それが今の自分たちのパワーになっていますね。

ーーバルセロナの試合ではソシオ(会員)である男子のサポーターも多くいました。また、アメリカの女子リーグ(NWSL)では、ファミリー層も多く見受けられます。今回の国立開催では、どのような客層がターゲットですか?

安本氏:

女の子たちにはぜひ、見にきてほしいですね。INACのホームゲームでは、小中学生や高校生、大学生は毎回無料招待しています。その子たちがサッカーを始めて、10年後に「あの時、国立に試合を見に行った」と言ってくれたらすごく嬉しいですね。

最近、女子サッカーで大事なキーワードがわかってきたんです。それが「共感してもらう」こと。そのためにも、午前中は新国立のピッチでサッカーができる子供向けのイベントを予定しています。そういう体験は一生思い出に残ると思うし、未来のWEリーガーたちに、「国立でサッカーができるんだ!」と共感してもらいたい。それは親にとっても嬉しいことだと思うので、ファミリー層もターゲットです。また、東京都、神奈川県、千葉県、茨城県のサッカー協会の協力を得て、女子チームは招待させてもらいました(新型コロナウイルス対応への感謝も込めて医療従事者も無料招待予定)。

キックインセレモニーは、元なでしこジャパン主将の澤穂希さんが登場予定(写真提供:INAC神戸)
キックインセレモニーは、元なでしこジャパン主将の澤穂希さんが登場予定(写真提供:INAC神戸)

ーー女子クラブとして初の国立での開催、集客への挑戦、そして未来への投資。様々な価値のあるチャレンジになりますね。安本社長にとって一番の原動力は何ですか?

安本氏:

2011年になでしこジャパンがW杯で優勝した時に“なでしこフィーバー”が起こりましたが、まずはあのレベルまで追い付いて、次の目標を作りたいと思っています。あの時にリーグや各クラブにもっと運営力があれば、女子サッカーファンはもっと残っていたはずです。マーケティングも含めて、興業として試合を成り立たせる意味では、フロントスタッフも含めた「クラブ力」を上げていかないといけない。選手たちはサッカーをするのが仕事ですが、興行が成功すればスタッフも自信になるし、クラブの総合力が上がりますから。

ノエビアスタジアム神戸では、ピッチ際で試合が見られる「エキサイティングシート」など、様々な企画を展開している
ノエビアスタジアム神戸では、ピッチ際で試合が見られる「エキサイティングシート」など、様々な企画を展開している

ーー今季、WEリーグが開幕してから、INAC神戸の「クラブ力」は上がったと思われますか?

安本氏:

かなり上がったと思いますよ。思い返せば、開幕戦の時はみんなギリギリの中でやっていました。話題作りをして、WEリーグアンセムを作曲した春畑道哉さん(ロックバンド「TUBE」ギタリスト)に来ていただいて、セレモニーもしました。私は試合中からお腹が痛くて、終わってからすぐに病院に行ったら、盲腸で緊急手術ですよ(苦笑)。昔からストレスが限界まで溜まると盲腸になるんですが、20年ぶりに出てしまいました。

Jグリーン堺やユニバー競技場で試合を開催したときは、ノエスタに比べたら小規模なので準備は楽でしたが、それでも前日の深夜まで準備をしました。国立は設備が揃っている分、運営はしやすいのですが、とにかく箱が大きいので大変です。その点では、2年前にカシマスタジアム(J1鹿島アントラーズの本拠地)で県外興行を行った時の経験も生きていますね。

ただ、あの時からフロントの人数は減って、今は6人で運営しています。外部の協力も得ていますが、開幕戦でみんなあたふたしていたのに、今は余裕でできている。スタッフの成長を感じます。

ーーノエビアスタジアムのホームゲームでは毎回、様々な企画やグッズを考案されていますが、今回はどのような仕掛けを考えていらっしゃいますか?

安本氏:

今回、「聖地」を存分に楽しんでもらえるように、開場時間をいつもより早い、キックオフの2時間半前にしました。限定のスタジアムツアー(完売)や、記念グッズも用意しています。「ロイヤルシート」では、選手入場を近くで見られます。また、ノエスタではYogiboのソファーに座ってピッチサイドで試合を見られる「エキサイティングシート」という特別席があるのですが、国立では消防法上同じことができないので、コンコースで同じ体験をしてもらえるようにしました。

試合前には、春畑さんの生演奏があります。キックインセレモニーは、なでしこジャパンのレジェンドである澤穂希さんと宮間あやさんにお願いしています。また、両クラブのチームカラーが赤なので、ハリセンで「国立を真っ赤に染めよう」と計画しています。浦和さんの協力を得て作ったポスターもかっこいいので、期待していてください。

国立に来られない神戸のファンの方のために、関西ローカルのサンテレビで生中継があります。スクールコーチの大竹七未さん(元日本女子代表)と朴康造さん(INAC神戸テクニカルアドバイザー)のダブル解説です。

今季は開幕からコロナ禍でさまざまな制限がありましたが、すべて解禁になりました。それだけに、5月14日に向けて抜かりない準備をして、これまでできなかったことをすべてやります。そして、WEリーグ初代チャンピオンと皇后杯女王のハイレベルな頂上決戦を堪能していただければと思います。

ゲストには春畑道哉さん(右)も(写真提供:INAC神戸)
ゲストには春畑道哉さん(右)も(写真提供:INAC神戸)

2021-22 Yogibo WEリーグ 第21節

INAC神戸レオネッサ vs. 三菱重工浦和レッズレディース

5月14日(土)16時00分キックオフ@国立競技場

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*表記のない写真は筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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